ハイテクハイブリッド
今から30年くらい前、「ハイテクブーム」なんて言われるスニーカーの大ブームが起こりました。当時の僕はスキーにハマり、年間100日くらいは山に籠るような生活を送りながら、都内にもどったら靴屋さんでアルバイトをするような生活でした。誰かにもらったスポーツブランドの集う大きなファミリーセールのチケットを持って会場に出かけ、あるブースで見つけたエアマックス95’に目が釘付けになったものの、、セールで13,000円は当時の僕には買えず、何を買ったのかも記憶にないまま会場を後にした1年後、、そのセールで見たエアマックスが社会現象まで引き起こす存在になり、僕がアルバイトをしていた靴屋では15万円ほどのあり得ない値段で販売していた。13000円のセール品が買えなかった当時の自分の経済力の無さを恨みつつ、なんとなく、アウトドアブランドを街でそのまま着ることが増えていった。セレクトショップでも「高機能でおしゃれ」なファッションが増えてきたのはその頃だったと思います。今日ご紹介するコートは、どことなくその当時の空気感をはらみながら、アウトドアブランドのそれとは違ったアプローチで仕上げたコートです。
NO CONTROL AIR 裏キルトWOOLコート ¥79,200(税込)
触ると一瞬「ボンディング?」と思えるような張りがあるが、どうやら通常のボンディングではなさそうだとわかる。するとこの天然のウール100%の素材とは思えない張り感はなんだ?ということになる。聞いてみると全面に芯地を貼ることで、この不思議な風合いを出しているという。芯地は通常、しっかりさせたい場所に部分的に貼るものです。シャツなら襟とか前立てやカフス。紳士物のスーツはさまざまな種類の芯地がさまざまな場所に使われている。しかし全面にではない。話を聞いていて思いました。また変わったことをやっている。。と
衿のデザインはNO CONTROL AIRらしい下がりのついた小さな衿。スタンドになるのかな?と思ったら両方にボタンが付いている。
こうなるようです。
納品時はここに収まっている。
ボタンは比翼で見えないデザイン。
袖は太くて湾曲した、こちらも彼ららしいデザインです。
袖口がとても大きく、なんだか見たことがないくらい長くてたくさん穴の空いたベルトが付いている。その穴の数は、悪ふざけで付けたのかと思ってしまうほどたくさんある。面白い。使いながら思わず笑いが込み上げてくる。普通は、、なんていうとデザイナーに怒られるが、普通は、、だったらもう少し袖口を小さくしとこうって考える。これは明らかに絞った姿を見せたいデザインです。その極端な方法がなんだか面白くて笑えてしまう。
こんなに絞ってもまだ穴が余っている。。
裏地は胴裏がこのキルティング。袖裏はポリエステルです。
このキルティングは、他のモデルでも採用している「KOMATHERMOコマサーモ」というハイテク素材を中に挟み込んだキルティングです。コマサーモは断熱性に優れ、保温力のある素材で、吸湿発熱性があるため着用していると発熱し、保温するという優れもの。中綿と異なりワタが入っているわけではないため、薄くて軽くてしなやかだ。ありがたいことに防風性能まであるので、風も防いでくれる。
それで身頃に使用される生地は何かというと、梳毛のWOOL100%なのです。冬物の上質なスーツなんかに使われるような素材です。
色はこちらがダークグレートップ。
ベージュトップとダークグレートップの2色展開です。
これを見た時、「ハイテク」という言葉も頭の中で引っかかりながら、90年代後半に流行り始めたアウトドアブランドが作るステンカラーコートを思い起こした。今では当たり前に常にあるものだが、ストリートファッションに降りてきたばかりのアウトドアブランドが街着を作るというのは当時新鮮に見えた。全身芯張りという面白い手法で当時の空気を感じさせる素敵なコートを、僕なんか足元にも及ばないくらいいつも金欠だった妻に着てもらいます。
当時の流れでハイテクスニーカーでも合わせてみたいところですが、、カツラギの極太ワイドパンツにR.U.のブーツです。襟を立てて袖口はやや絞り気味。
襟をおろして。
大きめなデザインでユニセックス展開しているため、こちらはこれで「XXS」という一番小さなサイズです。アナベルではこのワンサイズをセレクトしています。
横から見た袖は綺麗にカーブを描き、個性が光る。ラグランスリーブのトップにダーツがあるが、それが効いて全体のオーバーサイズに対して肩周りはすっきり見える。
ダークグレーは昨年の裾絞りコーデュロイパンツに合わせて。
袖は絞らずにそのまま着るとこのように。不思議なことにコチラの方が濃色なのに大きく見える。袖を絞る効果を確かに感じさせてもらえたようだ。裾が細いパンツにヒールを合わせているから余計にそう見えるのかもしれない。これはこれで写真以上にかっこいいと感じるスタイリングでした。
後ろから見た際には身頃が少し小さく感じますね。見る角度でサイズ感覚が変わるようにも思える不思議なコート。袖とのバランスは単なるAラインではなく和装のような印象も受ける。
強い張りのあるボンディングや通常のキルティングとは異なり、ハリがありながらもどこかソフトさも感じさせる。表地のウールだけを見ていると裏側のハイテク感に驚かされる。「コマサーモ」の繊維メーカーの情報を読んでいたスタッフ横やんは、難しくて寝てしまった。「ようするに、、軽くてあったかいってことですよね?」と言っていたが、確かにその通りです。買い物はお店に行くのが当たり前だった30年前。通信販売といえばハガキか電話でしかできなかった時代。「誰がそんなもんやるんだよ?」なんて思っていた時代が懐かしい。今から30年後はどうなっているんだろう?そんなことをちらほら考えつつ、コートをご覧ください。