普遍とかぶき
ファッションは気分を売る商売だということも確かにその通りなのですが、でも一方で個々に探求できるそれぞれの普遍性はありえるな、、とメーカーで働きながらずっとそんなことを考えていました。ずっと好きでいると見えてくる自分なりの正解のようなものがそれなんだと思っています。
僕は音楽には特に精通していないし人並みにしか聞かないけど、気に入ったものをずっと聞き続ける習性があります。マイルスデイヴィスの「on the corner」とバイアード・ランカスターの「it’s not up to us」という2つのアルバムは、大してジャズファンでもない僕がもう25年以上聴き続けているアルバムです。たぶん、ジャズの世界では誰もが知っているような名盤なのかもしれませんが、ジャズを知らない僕もずっと聴き続ける音楽の凄さって何なんでしょう。2つとも半世紀以上前の音楽なのに。普遍的なものの正体はよくわかりませんが、その2つのアルバムは2つとも僕の知っているジャズから大きくはみ出したものであることは確かです。今日は先日の素晴らしすぎるシャツに続き、FIRMUMの規格外のベストをご紹介します。
FIRMUM オーバーサイズフードベスト ¥48,400(税込)ベージュ
見た瞬間に買い物でいいものを見つけた時の勢いで素材違いや微妙な形違いも含めて試着しまくったのがこのベストです。「どうやって着ようか?」を考えるのが楽しくて仕方ない洋服です。サイズは規格外にとにかく大きいので、どのサイズが合うか?なんて考える必要はありません。僕は展示会でツイードのジャケットコートの上に着るのが最高に気に入って、セットアップのツイードとこのベスト、そして先日興奮気味にご紹介したピンクのストライプのドルマンスリーブのシャツを個人発注いたしました。
フードはとっても立体的です。
ボタンはここだけに付いています。比翼布の内側にはしっかりしたジップがテープを配色にして出てきます。
ダブルジップです。本来的な意味はありませんが、着こなし的には何に合わせるか、予定調和のないベストでしょうから、ダブルジップが頼もしい存在です。
アームホールは30cm前後もあるので、コートだろうが何だろうが、なんの干渉もありません。自由におしゃれをお楽しみください。
ポケットはフラップポケットです。
最大の特徴はこの内側です。FIRMUMのファンの方にはお馴染みでしょう。さまざまなお洋服に彼らが使用しているコマサーモキルティング。ダウンのような劇的な暖かさではなく、ほんのりウォーム感のある3層キルティングは、着用期間はウールのコートやダウンと比べると2倍です。いや、、もっとかもしれませんね。10月も気温を見ながら着用機会は出てくるでしょう。シャツの上から、カットソーの上から、どんどん着始めてください。ちなみに左側にだけ内ポケットがございます。
このたくさん付いているボタン、気になりますよね?これもFIRMUMファンはすぐにピンとくるかもしれませんが、実は別売りでライナーが何種類か存在します。ウールのものもあったりしますので、後々(のちのち)ライナーも付けてスタイリングの幅を広げたいという方は、ぜひご相談ください。どこに行けば現物を見ることができるか、お教えいたします。アナベルではライナーまでお取り扱いしてしまうと、ラインナップが広がりすぎて大変なことになるので、今のところ中途半端にセレクトをすることをやめています。
そしてこのベスト、ただただ大きく作ってあるだけでなく、さまざまな箇所にこだわりや小さなシルエット変化をもたらすディテールデザインを垣間見ることができるベストです。これはライナーサイドに入ったタックです。これがあることで僅かに丸みがでます。
アームホールのバックサイドにはダーツがあります。大きいには大きいのですが、着た時に出る無駄な分量を削るためのもので、こういったことを細かくすることで、大味にならないおしゃれな仕上がりになるのでしょう。
横から見た感じ。ケープとかポンチョのような佇まいですね。しかしまさにそんな感覚で着ていただけたらな、、と思って力を入れてバイイングいたしました。裾のラインもとても独特です。
フードと身頃の間に、シャツの台襟みたいなパーツがあるのがわかると思います。ステンカラーコートやトレンチコート、テーラードジャケットにはよく見かける、月腰というパーツです。台襟では前中心まで出てきますが、月腰は目立たないようにこのフードをより立体的に高級感ある雰囲気にしてくれます。
フード自体も4パーツに分けて、より立体的な形を求めています。
そして背面はいつもの横ダーツ。オーバーサイズなのに、より立体的な外郭にこだわるのは、建築を勉強されていた頃の名残りなのでしょうか?洋服のデザイナーは、体の近くに布地がきた時に、摘んだり広げたりしてストイックに着心地を追求したりするものですが、FIRMUMの規格外のオーバーサイズにその発想はありません。もはや造形物としてのフォルムに拘ってのディテールであるところが面白いブランドなのだと思います。
オリーブ
今回は控えめ発注だったブラックがすでに完売しておりまして、こちらのオリーブとベージュの2色展開です。素材は以前にご紹介しているサカナヤパンツやカーゴパンツと同素材で、非常に軽く、風をシャットアウトするタイプの素材です。
ベージュはワンピースに羽織る感じで。目を見張る可愛らしいオーバーサイズです。昨年あたりから本格的に「ベスト」がさまざま提案されていますが、こんなものは見たことがありません。
「真冬には、スースーするから着ない。」なんて言っていたローゲージのカーディガンなんかの上に着ても良さそうですね。スースーしなくていい。
ワンピースやスカートには大抵似合うと思います。少し着すぎて飽きちゃったな、、なんて思っているワンピースやスカートがあったら、ぜひ重ねてほしいベストです。
オリーブは、ワンピースにブロックチェックのコットンシルクの羽織ロングシャツを着て、その上からレイヤリング。重ね着が楽しいベストです。
このベストを自分でも着て、スタイリングもして思いました。自分はやっぱり予定調和な洋服の着方をあえて避けるように避けるように着ることが大好きなんだと思います。
後ろ姿も可愛らしい。ペタッとならないフードにも注目です。
オリーブはパンツスタイルにも合わせてみました。ロンドンストライプを着た、サイズ感以外はトラディショナルな装いです。
アナベルで多くセレクトしている、太めのテーパーパンツには気負わずとも合わせやすいと思います。またアームホール30cmとは思えないスマートな肩周りは、細かなダーツやパターンメイキングの賜物なのでしょう。とても綺麗です。
前を開けて羽織感覚で取り入れても良いと思います。
最後はコートの上から着た感じです。ブラックは完売しておりますので、別な色に置き換えて想像してみてくださいね。(メーカーではすでに全色完売しています)
自分ではツイードのジャケットコートの上から着るつもりですが、女性がゆったりしたローブコートなどの上から着ても絶対かっこいいと思いますよ。
昔、メーカー時代に東海地方の面白いお店のバイヤーさんと、「おしゃれの真髄って何なんだろう?」という話でひとしきり盛り上がって、「おしゃれはカブいてなんぼでしょう。」というところに落ち着きました。「傾く(かぶく)」は戦国時代に流行した言葉で、「奇抜な装いや行動で誰の目にもとまる様子」を表す言葉です。歌舞伎の語源になったことでも知られています。冒頭にお話しした2つのアルバムも、ジャズと言われて聞いたらかなりの歌舞伎者です。しかしだからこそ60年後のジャズを知らない僕にも好まれているのかもしれません。最終的には好みの問題もあるとは思うのですが、もし本気でおしゃれを楽しみたいという人がいたら、ぜひ「かぶく」ということをちょと真剣に考えてみてください。きっと自分なりの普遍的なおしゃれに辿り着けると思います。