繊細な細工のようなお洋服
デザイナー玉井健太郎が初めて幼稚園時代に書いた絵本、
「くもにのったたね」からブランド名を付けたASEEDONCLOUD。
一見、ふんわりとした物語性に長けたブランドであるかのように
見えますが、中身を見てみるとそのコレクションは驚くほどトラディショナル。
今日は、彼らのコレクションの中枢ともいえるコートのご紹介です。
ASEEDONCLOUD
peasant coat ¥58,000+tax
orange
オレンジというと、橙のような、みかんのようなオレンジを想像しますが、
まったくそのような色ではございません。レンガをもう少しベージュ寄りに
したような、、EDWINのワークジャケットを連想させるような、
非常に合わせやすい色味だと思います。
もちろん、品がいい。
peasant coatという名の通り、今回のテーマに則し、
農夫や小作人をイメージしてデザインされたコートなのですが、
それはもちろん、彼ら独自の世界観による解釈に基づいたイメージです。
スコットランドのインヴァネス地方が発祥とされる、
インヴァネスコートと、ステンカラーコートを合わせたような
彼ら独自の凝ったデザインです。
インヴァネスコートは、通常のステンカラーコートの上から
ケープを纏った姿が一体化されたようなコートのことで、一般的には
シャーロック・ホームズのイメージが強いかと思います。
しかし、あらためて調べてみると、どいうやらもともとは、
スコットランドのインヴァネス地方で演奏されていた楽器を雨などから
守るために作られたコートだそう。
彼らが今回デザインしたコートは、伝統的なインヴァネスコート
の袖をケープ状ではなく、一般的な袖に変換し、見た目には
シングルのトレンチコートのようにも見える新しいものへと
進化させています。
ケープ状のフラップをめくると、裏側には携帯電話が入りそうな
縦長のポケットが隠れている。
もう少しめくりあげるとわかりますが、アームホールと
袖本体が切り離されたデザインになっており、脇部分の通気性に優れています。
現代のような高機能素材が生まれる前の時代には、様々な知恵で
心地よさが追及されていたことが、昔の洋服を見ることで想像されます。
このように。
こういうお洋服を本格的に作るデザイナーがいることに、心が躍ります。
生地は経糸がリネン、緯糸がシルクの素朴で
着古したアンティークのような風合いを持つ素晴らしい素材。
58,000円は、安いお値段ではありませんが、この素材、この相当に
凝ったデザインと丁寧な作り、そしてデザインにリアリティーを
持たせるテーマ性や物語。
それらを考えて、展示会で商品を見た時、正直に申し上げて、
安いな、、とさえ感じました。
ステッチを配色にし、際立たせたデザイン。
縫製技術が高くなくては恥ずかしくてできないデザインです。
裏側もとても丁寧です。
メンズ服の良い部分である、モノモノしさを感じます。
共布のベルト帯が付属します。
金具のない簡素な雰囲気がこのコートにはとても合っています。
トップボタン以外は比翼仕立てで見えません。
ポケットもトラディショナルなデザインでした。
箱型のフラップの周囲をよく見ると、、
何やらステッチがチラチラ見え隠れしています。
「貫通ポケット」と呼ばれる仕様で、内側に着た洋服の
ポケットから、コートを脱がずにモノを取り出せるように
このようなデザインが生まれたそうです。
誰が最初にやったのか?バーバリーとか、アクアスキュータムとか。
おそらくはそのあたりではないでしょうか。
また貫通ポケットは裏側はこのようになっていることから、
大きな裏側のパッチポケット部分に新聞を丸めてそのまま差し込み、
コートの前をしっかり閉めた状態でも内側の新聞を出したりしまったり
できることが喜ばれた時代もあったそうだ。
裏側は全てきれいにパイピングされています。
袖口にも美しいレールステッチが施されたタブ。
前のボタンをはずして、軽くベルトで結わく感じで。
全部外して羽織る感じで。
ベルトは緩やかに後ろに結わいて下げる。
キュッと結わくとインヴァネスコート風であることの
メリットがシルエットにも表れます。
通常のトレンチやステンカーの雨蓋では起こらない現象ですが、
コートの上にショートボレロを着たような印象に。
もう一色はネイビーです。
これもまたいい色です。
少しグレイッシュにも感じるスミクロっぽいネイビー。
ステッチも効いています。
こちらはふんわりパンツの白に合わせて。
閉めても開けてもかっこいい。
春から初夏。そして秋にも着ていただける。
セーターとも合わせられるスプリングコートをお探しの
方にもお勧めできる、一重ながらしっかりとしたコートです。
カジュアルにも、きれい目にも。
インナーには、以前SUSURIさんに特注したシャツジャケットを
合わせています。こちらも気になったら、まだ通信販売画面で
見ていただけますよ。
彼らの洋服は、大自然から感じられるような壮大でダイナミックな感動ではなく、
ジブリ映画、アリエッティに見られるような、箱を開けたら見えてくる
繊細でリアリティのある細工の数々を目の当たりにした時に起こる、
あのなんとも言い難い高揚感を得られるようなものである。
そしてそこには、デザイナー玉井健太郎を中心とする3人の
人柄が十分に感じられるのです。
セントラルマーティンズ美術学校のメンズ服飾科を卒業し、
ロンドンでは、マーガレットハウエルのアシスタントを務め、
帰国して東京コレクションにも参加している。
間違いなく洋服業界ではエリートと言える彼の作るブランドが
10年の活動を経て、未だに知る人ぞ知るところに留まっていることに、
疑問を抱かずにはいられないのですが、わたくしとしては、勝手に
自身の中で数年間温めたブランドでもあるので、丁寧に紹介をすすめ、
少しづつ、皆さんの知るところとなることを目標にいたします。