出会いの呪文は何だろう
よく同業者間での会話では、「普通が一番厄介で難しい」というような
会話になることがあります。このブログでもおそらく何度も触れていることですが、
確かにその通りなのです。僕は仕事柄、誰かのためにスタイリングを作ることが
とても多いのですが、「普通なもの」ほど扱いが難しい。ここで言う「普通」は
シンプルと言うことではなくて、「普通=あたりまえ」といった感じでしょうか。
「普通=特徴がない」と言ってもいい。
アナベルを始めるとき、呪文のように自身に言い聞かせていたのは、
「シンプルは好き、あたりまえは嫌い」でした。メーカー畑で、しかもずっと
メンズをやってきた僕にとって、レディースの小売のバイイングというのは
まさに日々冒険のような状況で、勉強でした。しかしその呪文のおかげも
あって、セレクトするものはシンプルなものが多いものの、どこか他に
ないものが増えてきて、それをごった煮でスタイリングすることで
お店が成立してきたように感じています。メンズ畑に居たことがどこか
特異性を生んだのかもしれません。
今日はレディース特有のアイテムである、普通ではないジャンパースカートを
ご紹介したいと思います。
blue in green
コットンネップデニムジャンパースカート
ブラックデニム ¥31,900(税込)
岡山の児島で、100年以上にわたり染色業を営んでいる方々がいます。
アナベルでは様々な楽しいパンツがお馴染みの高城染工さんです。
彼らは民藝の世界でも染色を行い、今でも座布団や暖簾などの
インディゴ染色を手染めで行っており、アパレル業界の常識を覆すような
色移りの全くしないインディゴ染が体感できます。
そんな彼らの存在を初めて知ったのは、彼らからのお手紙でした。
ある有名な雑誌に特集されていた彼らの生地のコピーとともに、
手書きのお手紙が数枚にわたり綴られたお便りは、どうにも気になって
捨てることができず、しかしすぐにお取り扱いもできず、たぶん初めて
お手紙を頂いた1年後あたりに商品を見せていただいたような記憶です。
僕が気にかかったのは、工場の近所にある料理屋の女将さんに作った
ワンピースエプロン(非売品)の味の出方でした。さすがは児島というべきか、
くたびれた素材感や色合いが最高にかっこよくて、見る人が見たら「汚い」
と思うかもしれないギリギリのやれた雰囲気を目の前に、「かっこいい!」を
共有できたことがとても嬉しい出会いでした。
こちらを作るご夫婦は高城染工4代目で、染色にとどまらず、児島で織られる
素材を生かし、「blue in green」というブランドを展開しています。
今回のジャンパースカートは、ネップデニムを使用した、僕が初めて見た
エプロンワンピースにどこか似た雰囲気を持った、少し変わったバランスの
デザインになっています。
この写真ではわかりませんが、低めのウェストラインとその下で
軽く膨らみのあるギャザーポケットが特徴的です。
こちらが後ろ姿。
実はこちらのご紹介は3回目になります。
つまりとっても気に入っています。お気に入りのポイントは
やっぱりバランスでしょう。どこをとっても少しづつ普通ではない
ディテールやバランスの積み重ねがこのジャンパースカートを魅力的な
ものにしてくれています。
オーバーダイブラック
¥35,200(税込)
こちらは先程のデニムをブラックに染めたもの。
デニムを染めてしまうというのも児島の染色屋らしい面白い組み合わせです。
本来先染めであるデニムに重ねて後染めをしたら、一体どんな色落ち、
経年変化を辿るのでしょう。まだ誰にもわかりません。
楽しみですね。答え合わせにたくさん着ても3年くらいはかかるでしょうか。
微妙に細めのショルダー部分とそのカーブ、そして何でも受け入れてくれそうな
大きなアームホールが特徴的です。ドルマンスリーブのブラウスやこれから
ご紹介するようなセーターまで重ねてお楽しみいただけます。
切り替えの下にボリュームをつけていますが、あまりギャザーやタックを
とっていないのが特徴です。デニムの質感だけで十分ですし、きっとこの
素材でギャザーやタックを入れていくと、商品自体の重量が上がり過ぎて
しまうので、よろしくないのでしょう。
デニムブラックは、FACTORYのセーターに合わせて。
ウェストの位置、少し低めなのがわかるでしょうか。
僕はこのウェストラインによるバランスがお気に入りです。
よって、ウェストベルトの下についたポケットに手を入れると
少しポケットが下すぎるのですが、そこはご愛嬌です。
ブラックデニムの経年は、皆さんも経験があるかもしれませんが、
最終的にはライトグレーと言えるほどの薄いグレーに留まります。
このデニムは、ネップがありますので表情にも特徴が見られるでしょう。
そして最も気に入っているポイントはこのショルダー部分のインカーブ。
細身のラインが長く続くようなカーブを両サイドで描き、とても綺麗な
印象のVネックです。下に着たものを高めるような控えめな分量感や
そうは言っても主張はしたと言わんばかりのカシュクールデザインが
相まって、デニム素材がとても女性らしく光るデザインです。
この背面の切り替えとヒップラインからのカーテンドレープが
美しい縦ラインを描きます。カジュアルな中に本当にさりげない
女性らしさやニュアンスを織り交ぜたデザインが好印象なのです。
オーバダイブラックは、 NO CONTROL AIRの定番シャツに重ねて。
シャツやブラウスに重ねたスタイリングは、そのまま春にも通用します。
内側のシャツを明るい色に変化させたり、カットソーにしてみると
印象も軽くなるでしょう。小物にも変化をつければ、ガラリ。
まさに一年中レイヤーに活躍させてほしいジャンパースカートです。
色に苦手意識を持っているお客様はとても多く見受けますが、
店頭に何年も通ってくださっているお客様が、つい最近になって
黒に目覚めてくださいました。ずっと拒否されていたので、
お店にとっては最高に嬉しい出来事です。何度も迷って勇気を持って
おそらく本人的には崖からバンジージャンプをするくらいの覚悟で
初めて購入した黒が、どうやら親族や友人にとても好評だったとか。
お店で言われても半信半疑ですが、そのように第3者にお店の外で
あらためて言われると、自信にもなりますよね。
色に対する苦手意識は実は色のせいではなくたまたまそのデザインが
似合っていなかっただけだったり、「ワンピースは似合わない」などの
アイテムでの好みも、デザインが変わったら最高に似合うものに
出会えるのかもしれません。先日開催したワークショップでも実感しましたが、
大人が夢中になっている姿そのものがとても若々しいし、10代や20代の
若者とコミュニケーシションを交えながら行うワークショップは、
どこかファッションの楽しさに共通するものを感じました。
同じお店で商品を見て試着をして、20代からアナベルでは70代の
お客様までが同じお洋服を購入されている可能性があるのです。
先日はお年を召した素敵なお客様がGジャンとジーパンのセットアップを
試着して、即決定でご購入されていかれました。最高に素敵だったそうです。
(だったそう、、というのは僕が接客していなかったから。)
その数日前、「このセットアップいいっすね〜。」という同業者の若い男子が
いたことを思い出すと、ファッションて楽しいなって再確認したところです。
横から見ても大きなドレープが素敵なジャンパースカートです。
そしてこの切り替えも、児島ならではなのか児島だからそう思えたのか
わかりませんが、ジーンズのバックヨークのような切り替えが、
ワンピースデザインでは見たことのない目を引くデザインになっています。
季節を感じながら、重ね着。
GASA*の長めの羽織コートを羽織って。
大きなショールを適当巻きで。
真冬は間にFACTORYのカーディガンがおすすめです。
あれがあれば、多少薄手のコートでも冬に大活躍。
水曜日に撮影をして、ロングと別注のショート丈を両方いっぺんに
ご紹介できればと思っています。ショートはまだ納品がされていませんが、
もう仕上げの工程だそうで、本当にもうすぐの到着です。
冬になりきらないこの時期の重ね着が本当に服好きにはたまらない。
男性はジャケット、カーディガン、ベストと限られた重ね着しか
できませんが、女性にはエプロンワンピやジャンパースカート、
ロングジレなんかも存在します。ぜひ思い込みを捨てて、まずは様々
ご試着ください。素敵な出会いが見つかりますように。