点と線と塊
quitan(キタン)のスタイリングルックを初めて見た時、アンティーク蚤の市のような感覚で洋服を作る人だなと感じました。蚤の市は僕も好きですが、とりわけごった煮の蚤の市が大好きです。都内だと門前仲町とか、町田の天満宮は大好き。日本の豆皿の隣にフランスのガラスを販売している人がいたり、あまり整理されすぎていない荒々しさもあって面白い。そこから何を拾い上げるかはその人次第。キタンのデザイナーも世界中の民族衣装やワークウェア、ミリタリーウェア、ユニフォームを見まくった上で、自分なりの感性でその時気になったものを拾い上げて洋服をスタイルを作っているようだ。だからパッと見て「らしさ」が全開なのだと思います。
quitan カシュクールドレスコート ¥63,800(税込)
名前の通り、ドレスであり、コートです。ハンガーにかかっているとコートとは思えませんが、持つとわかります。ズシっときます。女性は好きじゃない人が多いですよね。知ってます。だから展示会を回っていて、「重い」という理由でセレクトを我慢しているものはたくさんある。でもこれは我慢できませんでした。。
生地はオーガニックコットンの糸を使用して極限まで打ち込んだ超高密度なモールスキン。モールスキンは通常もう少し表面が起毛しているのが一般的ですが、おそらく高密度すぎて仕上げの起毛で毛が起きなかったんでしょう。そのくらい高密度です。キタンのお洋服の面白いところは、いかにも男性デザイナーが好みそうな素材をわざわざオリジナルで作り込んでいたりするところ。こういった生地を作る女性デザイナーはとても珍しい。
カシュクールはこのように穴を通して結くデザイン。デザインは韓服のチマチョボリの上に着るトゥルマギをイメージして簡素化し、洗練させたお洋服です。デザイン的には軽くて柔らかい生地で作りそうなものですが、フレンチワークの代名詞的なモールスキンを使うあたりはまさにデザイナーの個性なのだと思います。
サイドにはポケットが。
袖は太くて急激なカーブをつけたデザインです。
ダーツを入れて立体的な動きやすいカーブをつけています。
広く、分量のある着回しが美しいAラインを見せてくれる。
背面にはウェストから裾まで広がるインボックスプリーツ。動きやすさと見た目の美しさがそこにある。
しっかりした身返しで、ヘラヘラしない。しっかりした質感を持っています。
袖口裏など見えないところにも。
コチラはエクリュをドロ染したお色。写真ではわかりにくいのですが、ドロ染特有のムラ感が全体にございます。これだけ高密度な生地を染めるのは難しいはず。ムラ感がそれを物語っています。
この素晴らしい生地でもう一つ。
quitan ファーマーズスカート ¥61,600(税込)
こちらはフランスのアンティークスカートと、東欧で農作業着として活躍していたオーバースカートを組み合わせたデザインのスカート。カシュクールドレスもスカートも、色々なところからイメージして生まれたデザインですが、オリジナル素材の高密度モールスキンでまとめることで、はっきりと差別化されたオリジナリティを放っています。
サイドに見られるおびただしい量の綺麗なギャザーが印象的です。よくもよくも、、こんなにしっかりした生地でこれだけのギャザーを作ったなと、、驚きました。
この生地でこれだけのギャザーを入れたら、手に持ったら「重い」ということはデザイナーでなくても想像に容易いことですが、「穿いたら重さを感じない」ようにするのは、デザイナーの大切な仕事の一つです。このスカートは、ちゃんとそのようにデザインされています。
切り替えを利用したやや中心寄りのポケットは両サイドにございます。
バックスタイル。
東欧の農作業着をモチーフにしたというこのスカートの特徴の一つがこの背面の仕様です。おそらくここをしっかり作り込む事で、穿き心地の軽やかさを実現しているのだと思います。巻きスカートのように全部外れるのではなく、途中まで開き、当て布のような安定感が生まれています。
さらに穴を通した紐が非常に長く、より安定させるために1周半回すことも出来る。1周で後で結いても問題ない。
ドロ染
2つとも存在感が嬉しいシンプルなお洋服です。
カシュクールドレスコートは、これが最もポピュラーな着方。納品の際は紐が後に回って結いた状態でやってくる。トゥルマギの雰囲気に最も近いのもこの着方。
後はこのように。ちなみにコチラのカシュクールはこのようにしっかりとウェストを結いて着用していると、手に持った時のような重さは感じないそうです。
でもこうやって着ると、「ちょっと重い」と妻は申しておりました。
コチラはくるっと回して前で短くキュッと結く着方。これが一番安定して感じるそう。これだけの高密度な生地が前面は二重になっているわけですから、「風を通さない」というのが特徴のコートです。
袖やボトムス部分のボリュームに対し、細身に見えるボディー部分ですが、コートというだけのことはあり、意外に下にたくさん着ていただけるから驚きます。
このワンピースもなかなかしっかりした生地ですが、なんの問題もなくシャツをインナーにして着ていただけます。
またドロ染の方は、GASAの手編みのセーターの上から着てみました。コチラもなんの問題もなく、見た目の着膨れ感もありません。
なんだか1940年台のトレンチコートの着こなしみたいで素敵です。
下に着るものを変えながら季節によってお楽しみいただけるお洋服ではないでしょうか。秋の立ち上がりはTシャツの上に着ればいい。今時期はブラウスや薄手のワンピースに重ねても薄手のカシミアの上に着てもちょうどいい。
真冬は地厚なセーターの上に着て、さらに大判のショールや温かいストールを使うといい。
こんなふうにモヘアショールを使えば、真冬にも着ていただけます。ぜひレイヤリングをお楽しみください。
エクリュのスカートはしっかりした天竺Tシャツに合わせて。
スカートの存在感が素敵すぎるので、トップスはもっとシンプルでもいいのかもしれません。
360度、どこから見ても美しい。
ポケットはこのように中心寄り。
サイドギャザーが本当に綺麗。見惚れます。
ドロ染は同系色で。打ち込みのあるコットンとフワフワのセーターのコントラストが素敵です。
上からASEEDONCLOUDのコートを着るとこのように。こちらのコートもそう地厚ではありませんので、手袋、ショールを活用したレイヤーをぜひ楽しんでいただきたいコートです。
こちらはARTEPOVERAのリメイクキルティングブルゾンを合わせて。短い丈のアウターはこのスカートをより生かしてくれるアイテムなのではないでしょうか。
GASAの手編みのセーターを合わせて。ざっくりとした手編みのセーターはものすごく相性がいい。大迫力のスタイリング。
上からさらに個性的なASEEDONCLOUDのプリントのコートを。コートを脱いでも賑やかな冬に楽しいレイヤリング。
quitanは、世界中の民族衣装や伝統着、労働着や軍服をデザイナーの素敵な感性に任せて連なり、線になり塊になる。そしてそれは新しい何かの発見や驚きにつながる。そんな洋服作りを見ていると、やっぱり骨董市を思い出す。初めて気に入った古物を買ってきて部屋に置いた時、なんだかこそばゆい思いの方が優っていた。また一つ、また一つと仲間が増えてくるたびにどんどんしっくりくる。次に何を手にするか?どんなものと出会うか楽しみでまた骨董市へ出向く。点と点が線になる。やがて塊になって存在感を放ち始め、そこまできて初めて誰かが褒めてくれたりする。「いいね」って。でも実は自分の中では「あーでもない、こーでもない」って探し歩いたり未完成を楽しんでいる時が一番幸せだったりする。
quitanのコレクションは、これからも本当に楽しみなお洋服です。定番と言えるものはわずかしかなく、そのほとんどが出会いだと思って良いブランドです。ぜひアンティークや骨董を見る感覚で、ご自身のワードローブに加えてみてください。