昭和歌謡のように
80s’ヒットソングをひたすら流しながら仕事をしていたら、とっても落ち着くんです。時折、なぜかジーンとくる。頭に浮かぶのはブラウン管のテレビを囲う家族やテレビのツマミを大喧嘩で奪い合う風景。80s’というと自分が7歳から17歳の10年間ですが、歌を聞くことでこんなに色々な記憶が蘇るってなんか幸せですよね。情報が少なかった時代の良い点ですね。
僕よりたぶんひとまわり若い世代なんですが、昭和の香りが漂うデザイナー。それはSP(エシュペー)のデザイナー赤丸さんです。飄々と見せながらも沸々と燃えている。大体のことは気合と根性でなんとかなると思っている節がある。そんな赤丸さんが大切に育てているワンピースのご紹介です。
SP(エシュペー) 2way one piece ¥51,700(税込)イエロー
よく言われることで、デザイナーとパターンナーは脳みそが違うから兼務は難しいということ。そのことからパターンナー出身のデザイナーは珍しい存在とされる。ゴーシュさんとか、今活動をお休みしているTOKIHOがそれに該当します。だいたい無茶を言って工場や生産側を困らせるのがデザイナーでそれをなんとかする人の筆頭がパターンナーです。ところが赤丸さんは、デザイナーとして生産側に無茶を言うのがストレスで、自らパターンの勉強を再開して、ついにCADを操るところまできた男です。つまり自分で自分に無茶振りをするという妙な構図が誕生しています。
これを後に着ても前に着ても良いワンピースです。2年か3年ほど前にこのワンピースのファーストサンプルを見ていましたが、ものすごく微量の修正を繰り返しておりました。確かに2wayとして前後を本当に着心地よく、バランスよく仕上げようと思うとそうなるのかと思いますが、毎回パターンナーさんに渋い顔をされるのが彼にとってはストレスだと漏らしていました。
このスリットの中央にあるボタンが本当にいい役割を果たしてくれるのです。
ポケットは両サイドに。
三角の大きなマチをつけたサイドの切り替え。一つ拘っていたのはこの切り替えの前後のバランスでした。
袖は切り替えがなく、身頃と繋がったデザインです。特に着心地がよくなると言うことではなく、見え方に迫力が出るような気がします。その代わり用尺は取るので決して効率が良いものでもない。袖のカーブの角度も難しい。でもこのワンピースはこれがすごく良いように思いますから流石です。
袖口はスリットでレールステッチ。ステッチの埋まり方が1900年台のアンティークみたいですよね。こういう縫製が出来る工場も大切にしたいのだと思います。SPの自慢の一つです。
分量感を感じさせる裾のラウンド
ボタンがない方を前にしても良い。
襟のレールステッチもものすごく綺麗。
チャコール
カラーはイエローとチャコールの2色展開です。イエローは黄身がかったベージュといった感じです。すごく色気のあるベージュ。僕は赤丸さんが選ぶベージュが好きなんです。本当におしゃれな茶系を選ぶデザイナーだなと。
そしてこの着用写真はその色の絶妙さが出ていません。反省です。色は物撮の写真を参考にしてください。
裾周りの綺麗なドレープに負けないインナーはSISURIのレースのフルッターパンツ。
修正に修正を重ねたワンピースは肩周りが華奢に見えます。
こちらはボタンを前に。
袖の細さもいいんですよね。きっと。
サイドシルエットも美しい。
ボタン側を前にしてトップボタンを外した感じもとても女性らしくて素敵なんですが、これはこの途中にあるボタンがあるからこそ。
トップを留めた時との印象の差も結構なものです。お好みや気分でお楽しみください。
今日も80s’のヒットソングを流しています。今ちょうど、「昴(すばる)」が聞こえてきました。本当に日本語って素敵ですよね。まわりくどくて、力強い。ちょっと控えめで。SPの赤丸さんのデザインにはそんなまわりくどさと力強さを感じています。これからの進化にもとても期待してしまうデザイナーです。