お守り
ASEEDONCLOUD(アシードンクラウド)デザイナー玉井氏が2023AWのテーマとして据えたのは、「Kigansai(祈願祭)」です。まだ靄のかかった現社会の微妙な空気を払拭するため、「魔除け」というキーワードから、動物たちと、羊飼いを両親に持つ森の姉妹の物語を描きました。人は古来より、見えないものへ畏怖の念を抱き、理解の及ばない領域に対して崇めるような行動をとるようです。見えないものへの恐れに対し、どうしても必死に抵抗しようとする人の姿を愛くるしくとらえ、ユーモアを織り交ぜて表現したコレクションとなっております。まずはいつもの玉井さんの物語からお読みください。
<ASEEDONCLÖUD 2023 A/W -kigansai->
長期の大規模放牧に従事する人々のことを牧人という
彼らは春になると民衆から依頼され羊、山羊、牛、豚などを渡され
秋まで動物たちを連れて放牧の旅に出る。
冬の間は仕事がなく民衆からは定住を望まれず居場所のない存在でもある
牧人(羊飼い)の子として生まれた二人の少女
一人は世話やきでしっかり者の少女と自由奔放、怖いもの知らずの少女
二人は一緒に生活する羊と会話するために
羊の刈った毛を身に纏い羊たちと対話していた
そんな彼女達の村では森の動物たちを守り神として崇めている
村がいつも平和なのは動物たちが悪い悪霊や魔物を
村に入らないように退治しているからと言い伝えられている
冬をむかえた頃、居場所のない少女たちは
好奇心で守り神に会いたいと思い森に入る
そこでたくさんの動物たちに出会い
動物たちと対話することに慣れていた彼女たちは彼らと仲良くなる
キツツキ、ハリネズミ、フクロウ、ヘラジカ、ウサギ、リス
彼女達は森の守り神達と仲良くなっていった。
そんなある日、森の守り神達は彼女たちに相談をする
なんでも寒い時期になるとリーダーの熊は舟に乗って旅に出てしまうそうで
彼が早く帰って来るように一緒に寒さを追い払って欲しいとのことだった。
彼女達は動物たちと一緒に寒さを追い払うことにした。
色々な魔除けを使い数ヶ月で寒さを追い払うことが出来た。
寒さを追い払うと動物達とお祝いをして、彼女達は村に戻ることにした。
その後、毎年寒い時期を迎えると彼女達は熊に変わって森のリーダーになった。
今では彼女達は村人から守り神の声を聞くことができる
予言者として称えられている。
今日はコレクションの中から、「shepherd coat」を素材違いでご紹介したいと思います。その名の通り羊飼い用のコートです。
ASEEDONCLOUD shepherd coat ¥90,200(税込)
柔らかいツイード調の素材は、体にそってしっかりと温めてくれる「ブランケット」をモチーフにして足利市で織り上げた甘織の軽くてソフトな素材です。デザインは胸元にタックを取り、布地を重ねることで胸周りの防寒とデザインを兼ねています。ロングで美しいAラインのコートは、ウェストを絞ることでおめかしにも対応するという羊飼いの娘たちのことを想像した作りにご注目ください。またお色は、シャンブレーブルーが完売しておりますので、この1色でのご紹介です。
ラペルと上襟を立てることでコチラも防寒を兼ねたイメージチェンジが図れます。
フロントのボタンは比翼仕立てで見えません。
ポケットには仕舞い込むことができる大きめのフラップが。トリプルステッチが特徴的で、丈夫さも兼ねています。
サイドを切り替えて広げた美しいAラインです。裾はラウンドさせたことで、着用の際にはほぼフラットになります。
裏地にはシャツやワンピースでもご紹介していた羊飼いの1年間の生活風景を描いたオリジナルのシャツコーデュロイ素材が用いられて特徴的です。着用したら全く見えませんが、自己満足で。脱ぎ着の際にチラッと見える大胆な絵柄をご堪能ください。
背面につくタブで少し前に付いたループを引っ掛けて絞るシンプルな構造です。
こんな感じ。シルエットにも少し変化が現れます。
足捌きの良いように、長めのベントデザインです。
袖口は2段階にボタンをずらすことで絞れるのと、タブを反対回しにするともっと極端に絞ることも可能です。寒冷地域で着用の際に、風が入ってこないようにしたい場合にはそれもありだと思います。
ASEEDONCLOUD shepherd coat ¥79,200(税込)
こちらはデザインは全く同じで、素材がモールスキンを採用しています。手に持った感触が重たく、敬遠されがちな素材ですが、着用した際にはその重さは全く感じさせない素晴らしいコートです。真冬での活用が多いことを考えると、ハンガーに掛けてある時の重さは多めにみていただきたい素敵なコートです。防寒性という意味では、先ほどのウールよりも上かもしれません。風を通さないコートです。コチラもキャメルブラウンが完売しておりますので、ブラックのみの販売となります。
ディテールは全く同じです。素材使いの違いがあるだけ。コチラは胴裏がしっかりとしたコットンで、袖裏は滑りの良いポリエステル素材が付いています。内ポケットが両サイドにあるあたりもクラシックで良いですね。
先ほど説明していた袖口はこの通り。一番下がタブを反対回しにしてギュッと締めた感じ。
しっかりしたロング丈は、風もある程度防いでくれます。まだ寒くなりきらない今時期はインナーを軽く、コットンワンピースなどで。寒くなったら温かいセーターを重ねて着てください。
色はイエローというほど黄色くはありませんが、ナチュラル、生成りというほど白くない。淡い淡いレモンイエローが優しい冬の空気を醸します。
袖をキュッと絞った感じ。
襟を立てて。
トップだけボタンをつけて軽く羽織る感覚で。
ウェストをタブで絞った感じ。
後ろから見るとウェストラインまである長いベントが特徴的です。馬に跨る際にはとても便利なデザインです。現代社会においては何に生かされるでしょう?自転車にまたがる際?素敵な裏地がチラチラ見えるので、それだけで嬉しいベントです。
コットンモールスキンのブラックです。素材がしっかりしている分、コチラはシルエットがはっきりと出るのが特徴的。
襟を立てて。ウェストは絞っています。
横から見るとわかりやすい。これが絞った感じ。
これが絞っていない感じ。ウールのタイプよりはっきりとシルエットの違いが出ます。
落ち感がそこまで出ないため、Aラインもはっきりと。
インナーを見せながらのレイヤリング。真冬はここにストールや帽子を足して、手袋をプラス。
どちらも素敵な冬のコートです。
今回のテーマ設定には、デザイナー玉井さんの2歳になるお嬢様も一役買っています。娘さんがお気に入りで見ているクマのプーさんのお話に、「スグモドル」という見えない敵が登場するお話があるそうです。画面上でプーさんたちが見えない何かに驚いたり何もいないのに退治しようと頑張る姿が滑稽で愛くるしいそうです。そのプーさんたちと、現社会で生きる我々の姿を重ね、見えない恐怖には「お守り」「魔除け」だという発想で今回のコレクションは出来上がったそうです。展示会場でバイヤーに向けて一生懸命くまのプーさんのお話を説明する玉井さんが少しばかり滑稽で、印象的でした。毎回壮大な物語を作り、キャラクター設定をはっきりとさせた上で登場人物に向けて洋服を作るというスタイルは、作る方はものすごいパワーと頭脳を消耗するのかもしれませんが、待っている方は楽しみでしかありません。
明日はこんな可愛らしいプリントシリーズをご紹介する予定です。