赤丸さんからのメッセージ
デザイナーには様々なタイプがいて然りだと思いますが、「SP(エシュペー)」の赤丸さんは初めてお会いした時から異質さを纏っておりました。でも僕が親近感を覚えたのは、レディースには珍しいタイプでしたが、なんだかメンズデザイナーぽい感覚を覚えたからだと思います。やたら生地の組成にに前のめりで話をするし、縫製や仕様について熱く語る人でした。
SP(エシュペー) ラミーブラウス ¥49,500(税込)
SPデザイナー赤丸さんは、以前お話しした通り、生地の企画もやる側面を持っています。産地の機屋さんと繋がり、日本製の生地の企画を行うことも彼のお仕事の一つです。今回の生地はオリジナルではありませんが、あまり見る機会は少ない160番単糸のラミー素材。あえてラミーを使用することで、経年後も特有のシャリ感が残り、手触りに独特な印象を残すことができるのです。
もう一つの彼の特徴は、「縫製」にとことん拘ったデザインであることが挙げられます。annabelleでお取り扱いをするブランドの中でもトップクラスのこだわりようですが、それもそのはずです。デザイナー赤丸さんのライフワークとして、デザイナーをやりながら、日本の、しかもとりわけ都内の縫製工場の活性化というプロジェクトがあり、彼がお世話になっている都内の工場は、そこにしかない技術で、様々なトップクラスのブランドの無理難題に応える縫製職人が存在します。他ではなし得ない技術であるため、工賃もそれなりに上がるわけですが、赤丸さんはその価値に日本の繊維産業、アパレル産業が生き残る術を求めているデザイナーの一人なのです。
こんな細いラミーでこんなに細い、しかも長いループをレールステッチで綺麗に叩くフロントデザインも、その価値の一つだと思います。しかも絶妙にカーブさせた前端のコバステッチがギリギリすぎて美しい。
このフロントが開きながらギャザーが入るデザインは、ものすごく難しいと思います。しかも見て頂いた通り、ギャザーも恐ろしく細かい上に端正で綺麗です。彼が都内の工場の価値向上に努める理由もはっきりとしていて、簡単に説明すると、様々な技術職が評価されている中、国内でも縫える人が限られているような技術を持った職人と、安価な商品を縫っている職人が同じ価値で評価されるのはおかしい、と言うことです。当たり前のことなのですが、そうなっていないのが業界の現状で、そこに拘ってこそ業界の未来があると赤丸さんは信じて活動しています。
ループ1つ、2つでも大変なのに、、なんでしょうこのボタンの数。デザインとしてはものすごくテンションが上がりますが、縫うことを考えると普通は少し萎えます。でもこれに萌える(燃える)職人がいることが素敵なことなんだと思います。一般的にはあまり知られていないことですが、縫製職人の技術選手権のような大会があり、それを見ると職人によって恐ろしいほど技術の差があることがわかります。赤丸さんは都内の縫製向上に技術の高い人が集まり、トップクラスのブランドの縫製を担い、それに憧れる若い人たちが現れるような現場が作りたいそうです。ぜひ応援したいプロジェクトです。
この洋服で一番目につくのはこの襟の後ろかもしれません。すごくかっこいい。そして美しい。高い縫製レベルがあってこそのデザインです。
色はブラックもあり、着丈が長いものもある。こちらがロング。
素材がラミーの160番ですから、シャリ感、透け感、そして清涼感も抜群で、長袖でボリュームがあるデザインながら、真夏も活躍するお洋服です。
ブラックは7月1日から展示が始まるblue in greenのふんわりパンツに合わせて。(パンツは妻の私物です)
肩口のギャザードレープがすごい。横から見た際にもその素晴らしさが溢れ出るデザインです。
研修員制度が当たり前になって、海外からたくさんの研修生がやって来て、3年ほど経ってある程度の技術が身に付いたら本国へ帰る。現状の国産は、そんな研修員たちが7割を支えています。annabelleでお取り扱いしているブランドのデザイナーの多くがそこへの疑問を抱きながら現実と向き合い、より良いものを作り、業界の未来が少しでも良くなるように努め、それぞれが様々なアイデアで、大袈裟な言い方をすると立ち向かっています。考え方や手法はそれぞれですが、目標とするところは似ています。高い技術を要しながら国内で人材が育たない。どこか農業と重なるところがあるのがアパレル業界を下支えする縫製工場の現状です。
以前にも書きましたが、昔努めていたメンズブランドで、東日本大震災が発生した際に、東北地方の多くの工場が被災され、生産が中断される中、できる限り納期を守るために短期間で全国の様々な工場へサンプル依頼を出したことがありました。どこも優秀な工場ではあったのですが、結果デザイナーが納得する工場が見つからず、セールス担当だった僕はひたすらお取引先への謝罪に明け暮れたわけです。確かにその時感じました。「あの工場じゃないと出せないニュアンス」ってあるんだと。しかし当時の僕はすぐにそこに気づくことができず、なんでOKが出ないのか、苛立ちすら覚えていた時期もありました。デザイナーいわく、「長年連れ添った癖のようなものがそんなにすぐ表現できるわけがない。」と漏らしていたことに少し鳥肌が立ち、気持ちが切り替わったのを覚えています。全く同じ型紙を渡し、同じ縫製仕様書を添え、打ち合わせをしているにもかかわらず、確かに出来上がったシャツを比べると違うのです。
いつか縫製職人に注目が集まる未来が来るために、赤丸さんには頑張ってもらいたい。こうして少し伝えながら販売することで、その一端を担えますと幸いです。