FACTORY展「好奇心」開催のお知らせ
FACTORY展 「好奇心」
足利にあるFACTORYの工場を訪れたのはおよそ8年ぶりのこと。ニット、縫製、染色、撚糸が同じ場所にある工場は珍しく(もしかしたら他にないかも)、費用対効果や効率性をいかにも求めていないその姿には、「好奇心」がみなぎっている。染色場の片隅に、以前に来た際にも見かけた、キャンプ場などにありそうな古く錆びついた正方形のステンレスらしき素材の水場がある。使用していないことは明らかだが、どうやらそれは自分たちで染色をやり始めた際に一番最初に導入した、手染め用の桶のようだ。「とりあえずやってみよう」の精神のまさに聖地である。
まず自分たちで試しにやってみて、徐々に本格化していくというこのプロセスが、少し一般的には奇妙な自社工場の姿となって現れているのかもしれません。「好きこそものの上手なれ」とはよく言ったもので、好奇心に勝る上達のコツはないのだと証明しているようにも見えてきます。モンゴルの地に原毛を求めて訪れて、もう20年近くが経とうとしています。現地の運営にはさまざまな想像を超える困難がありながらも、広大な自然を前に「より良い原毛」を求める好奇心の旅が再び始まろうとしています。今展はモンゴルのさまざまな場所で遊牧民から分けてもらった原毛を用いたセーターと、アナベルでも例年ご好評をいただいているボトムスを併せてご紹介する機会とさせていただきます。ボトムス、セーターともにアナベルではセレクトしきれていないたくさんのデザインがございます。ぜひこの機会にお越しいただけますと幸いです。
DMで使用させていただきたこの写真が、モンゴルの首都ウランバートルからおよそ600kmほど離れた高山地帯で、遊牧民の暮らす広大な自然の中。何年もかけて関係を築き上げてきた遊牧民から獣毛を分けてもらっている。
ゲルと呼ばれるモンゴル遊牧民の家屋がテントのように点在して、少しづつ季節とともに移動してゆく遊牧民の暮らしの中に溶け込んで、広大なモンゴルの中の情報や関係性に深みを増してゆく。このゲルの中に招待されるにも時間がかかるということです。
ここで刈り取られた原毛をトラックに乗せて、また600kmの道程をひた走る。
こんな具合。もちろん日本の高速道路の600kmとはわけが違いますから、その何倍も時間をかけて進むたびになるそうです。
モンゴルの都心部である首都ウランバートルの空港のほど近くに、FACTORYの紡績工場があります。ここは何年もかけて築いた信頼関係をもとに、モンゴル人の方を代表に立てて運営しています。細やかな日本からのフォローはFACTORY社長野村たか子さんのご子息、塁(るい)さんの役割だそうです。話を聞く限り、他のどの仕事よりタフな内容です。。
この紡績工場で、ストレート糸と呼ばれる撚糸をする前の状態の糸までを製造していよいよ日本へ輸出します。そして日本の足利工場へ到着した糸は、そのシーズンの企画に合わせて様々な撚糸が行われて、ようやく編機にセットされます。
それがこの状態です。編機は世界シェア圧倒的No.1である日本のSHIMA SEIKIのホールガーメントの機械です。
その瞬間は捉えられなかったのですが、ホールガーメントの製品は、この状態でコピー機から出てくる紙のようにまさに出力されて出てきます。数十万通りのデザインが可能とされるプログラミングをしっかり時間をかけて行うことで、生産段階に入ると見張りがいなくとも仕事を続けてくれるおかげで、その間、人は他の仕事に時間を割くことができるというもの。現状ほとんど全てのゲージ(糸の太さ)で、このホールガーメントでの製造が可能になったため、少しづつ企画デザインの幅も広がっていると言います。
そして大変なのがこちらの工程です。ホールガーメントの編機が開発されるまでは、まず各パーツを機械編みで作り、それらをこの「リンキング」と呼ばれる工程で繋いでいく作業が必要でした。袖や身頃の前後ろを繋げる作業です。現在では多くのパーツでリンキングの必要がなくなってきたことで、一部の特殊なデザインや別素材や編み立ての異なるパーツを後からリンキングで繋げる際に使われます。ニットPOLOの襟などはこのように繋がれます。
この作業、プロの職人さんの仕事を見ているとあっという間に出来ていくのですが、プロでも襟1着付けるのに15分かかるそうで、、塁さんがやると1時間。僕ら素人がやると、出来ないか、出来たとしても数時間はかかるそうです。長年にわたり名だたる企業がこのリンキングの自動化の開発に挑んできたそうですが、正確性を上げることが出来ず、今は諦められている部門だそうです。
リンキングや検品、整理を終えた商品は次に染色の段階に入ります。今では何種類もの染色機を稼働させているFACTORYですが、初めは塁さんが他社で経験を積んで戻ったことをきっかけに、上の写真の桶のような手染めの染色機を一つ購入して「とりあえずやってみた」そうです。足利の自社直営店で染色したものを常連のお客様を中心に販売し、自分たちでも着て洗って、厳しい目でチェックをして、「これはやれる」と判断したようです。これが2010年くらいのことのようで、コペンハーゲンのファッションの展示会に参加して、ブランドの一貫した活動を評価される形で見事受賞しています。僕が知ったのは、その後の日本国内での展示会活動の最中で、2013年あたりです。
初めは1着づつ手染めをするスタイルから始まり、徐々に量が増えてきたことで機械も増えていったそうです。こちらは今でもメインで使用している製品染の機械の一つです。内側のドラムが何層かに別れて回転していて、数種類の染色が一度にできる機械だそうです。
こちらはその大きなタイプで、一度にかなりの量を染色することが出来ます。ただ、問題なく染色が出来ているかどうかは、前の写真のものも含めて経験値込みで勘のようなチェックが必要で、ちょっと危ないけどこんな風に肉眼で確認するそうです。蒸気が出てくることがあるので、経験者にしか出来ないチェックです。
こちらはまた違ったタイプの大きな染色機で、お邪魔した際にはしっかりしたタイプの布地のパンツなどを染めておりました。
こちらもたまに引き上げて、懸念があった箇所がちゃんと染まっているかどうかをチェックしながらの染色がなされます。結局、最新の設備があっても経験のある職人による見張りやチェック、何か事が起きた際には対処が必要で、オートマチックにはなし得ないということがよく分かります。
例えばコットンでも、染まりにくい素材や「マイグレーション(物性移動)」と言って染料がまだ染まっていないところ染まっていないところへ次々と移動していく現象のことのようで、つまりは染めムラの原因になるそうです。そういった染めムラを防ぐために、、(名前は忘れてしまいましたが)このように1着づつ施される工程があるそうです。1着づつですよ。しばらく見ていましたが、気が遠くなる作業です。
それをさらに1着づつタライで濯ぎ、ムラがないかどうかを見ながら染め返して天日干しをする。
今この商品はアナベル店頭にも並んでおりますが、これだけ手間がかかっているなんて、正直僕も知りませんでした。
染めと天日干しが完了した商品は再び縫製場の一角にある仕上げ場にやってきて、アイロンで皺伸ばしなどを行なった上でふっくらとした仕上がりのためにこのような仕上げ機に着せられ、蒸気と空圧で一気に整えられます。そして畳んでタグをつけて出荷です。
モンゴルの大自然からやってくる原毛から製品になるまでの製造管理を全て自社で賄っているFACTORYの展示を、昨年より商品ラインナップを増やし、annabelle304にて開催します。直営店でしか見ることが出来ないアーカイブス商品を豊富に揃えると同時に、今月から来月にかけて入荷する今シーズンの商品のご予約も可能です。アナベルでセレクトした一部の商品だけでなく、FACTORYの幅広いラインナップを一堂にご覧いただける機会となっております。
また初日の土曜日には、この壮大な事業の多くを現場で取り仕切っている塁さんが在店して下さいます。ぜひ皆様のご来店を心よりお待ち申し上げます。