葛藤が生む素敵
最近、店番の妻も電話に出ることがある。
以前は、出なくていいと言ってあったのだが、
変に負けず嫌いな妻は、
「それでは留守番を果たせていない」と言いはじめ、
週に一回の店番のために、小声で電話対応の練習をし始めた。
先週、事務仕事を終えて店に戻ると、いかにも怪訝そうな
表情で、妻がこちらを見ている。
「電話がきたんだけど、、」
「どちらかの、、誰かさん??」
・・・・
・・・・
「いや、あまりにも声が小さくてね。」
「何回か聞きなおしたんだけど、またかけるって。」
「お世話になってますって、言ってたからお客様ではないよ。」
「サイト―って言ってたような気がするような、しないような。。」
声が小さくて、サイト―さん、、
「susuri の斎藤さんだね。」
「そうそうそう!」、「言ってくれればいいのにね。」
「いや、言ってたんだろ、聞こえなかっただけで。」
囁くようにお話をする、やわらかい印象の斎藤さんが作る
susuri のお洋服は、その人柄からは想像できないほどに頑固で、
ゆるぎない世界を持っている。
しかし、細やかなディテールや数ミリを気に掛ける
バランス感覚は、やはり人柄と被るのだろうか。
susuri
ジャニターブラウス ¥33,000+tax
ハンドシルクスクリーンで3色を使用した、
贅沢なオリジナルプリントは、今シーズンのテーマ、
「Light a candle」を象徴する代表的なプリントです。
ネック、フロント釦、袖口、袖口釦が
ベルベットで切り替えになっています。
柄で見えづらいのですが、前身のバストラインも
切り替えてシルエットを広げています。
ふくらみと丸みのある特徴的な袖は、
切り替えのギャザーで奇麗に収まります。
ネック周りには、背面まで一周にわたり
細やかなギャザーが刻まれる。。だけでなく、
これまた見えづらいのですが、ギャザーから1cmほどの
あたりをミシンでたたいて処理しています。
これにより、ふんわり広がりすぎず、
齋藤さんの思う、絶妙なギャザー加減が実現しています。
確かに、、かっこいいが勝るような、鋭いデザインです。
袖も切り替えています。
しかも丸く斜めに。
素敵なクラシック。
齋藤さんの電話がどうしても聞き取れなかった妻に着てもらいます。
今シーズンも特注した、
susuri マーチスカートに合わせて。
着丈がすっきりとして、スカートにも合わせやすい。
細やかな特徴的デザインが盛り込まれつつ、
全体にはシンプルにまとまっています。
こんなに、細やかなデザインを駆使した
ブラウスを作る一方で、オーセンティックを
超える王道的なセーターをデザインする。
susuri
ポエータハイネックセーター
¥28,000+tax
このようなシンプルなハイゲージニットの
代表と言えば、洋服屋ならほとんどの人が同じブランドを
頭に浮かべることでしょう。
「JOHN SMEDLEY(ジョン・スメドレー)」
英国発の世界的ニットメーカーで、300年以上の歴史を持つ。
susuri さんが作ったこのセーターが、
いかに良いモノであっても、WOOLのハイゲージ
であれば、どうしてもそこと比較されてしまう。
が、しかし、触ってすぐにその類ではないことがわかる。
セーターではあまり触ったことのない感触。
収まりのいい長めのリブデザインも
クラシカルで素敵です。
そして、この素材の正体は、なんと「Silk」です。
Silk 95%、Nylon 4%、Polyurethane 1%
一見、ジョンスメドレーと比較して、
WOOLならいかに良くとも、値段が通らないと思いきや、
これは、着てみたらわかるはず。
オーセンティック以上の感触です。
シルクの特徴を考えると、これ以上ない、
ベストなデザインだと感動します。
熱の伝導率が低いシルク素材は、
夏は涼しく、冬は暖かい。
そして、毛ではないから毛玉にもならず、
静電気を起こしづらい性質があるため、
冬のセーターとして、とても有難い。
今は一枚で着てちょうど良い日も多いはず。
スカートにタックイン。
ゴーシュのカツラギワイドパンツにシンプルに。
こちらの色は、どう見てもチャコールグレーに見えるのですが、
ダークネイビーという表記です。糸の色がダークネイビーと
いうことでしょう。
いつの時代も古びない、
オーセンティックなカジュアルスタイルです。
ちょっと肌寒い日は一重のコートを引っ掛けて。
近年のsusuri 齋藤さんのデザインは、
幅広い様々な感性が、とても堅い一枚岩の様に合わさり、
その迫力を増しているように感じます。
今シーズンのテーマ、「Light a Candle」は
ロシアの映画監督、アンドレイ・タルコフスキーの傑作
「ノスタルジア」からインスピレーションを受けているという。
偏りのある世界観を投影させ、「映像の詩人」とまで称された
タルコフスキーが、亡命した先で待ち受けていた「大衆性」の
ある映画作りに悩まされ、一度は捨てた母国への郷愁。
映画「ノスタルジア」の主人公は、監督そのものだと言われています。
自由でニッチなデザインか、
大衆的で売れるデザインか。
デザイナー斎藤さんは、そんな自らの立場を投影して、
一本のろうそくの灯がともし続けるように、
慎重に、大胆に、今回のコレクションを作り上げたことでしょう。
本当にこの先が楽しみなブランドです。