「AODRESS~刺繍の旅~」
彼らは漂うように生きている。
お堅く生きてきた私には、不思議極まりない浮遊物のようにも見える。
絵が驚くほど上手なのだが、本格的に勉強した経験はない。
10代で海外に出た二人は、当時の自分たちをこう振り返る。
「全く人間らしい生活をしていなかったし、その日僕らがこの世から
いなくなっても誰も気がつかないような存在でした。」
絵にかいたようなヒッピーだったという。
そんな旅の途中に出会ったのが、インドのカディー(手紬、手織りの布)を
製作する村人たちだったそうだ。彼らのモノつくりに感激した二人は、
その土地にしばらく居座り、学び、その生活に馴染んでいったという。
そして、再び戻ることを強く決意した彼らはいったん帰国し、あの村の人たちと
何ができるか?自分たちは何がしたいか?
問い続けた結果、生まれたのが「AODRESS」というブランドだった。
彼らに「ブランド」などというと、
「いやいやそんなたいそうなものではない。」と、
必ずそのように照れくさく答えるのですが、、確かに、話を聞けば聞くほどに
「ファッションブランド」という感覚がしっくりこない。
「最近はカディをあまり使わないですね。」という問いに、
「初めて見た時のような納得のいく製作現場がない。」と答えてくれた。
それは、世界的に良い生地として流行って、村に富をもたらしたことへの
副作用なのかもしれない。そう思うのだが、それはカディに限った現象でもない。
そんな彼らの話を聞いていると、やはり「ファッションブランド」という言葉は
全くしっくりこない。
「インドは好きですか?」という問いには、
「好きっていうか、、なんか一緒に生きていかなきゃ仕方ない、家族みたいな存在。」
そんな風に表現していた。
そんな彼らが今、力を注いでいるのが高級織物で有名な「ジャムダニ」や
自身の描いた絵をもとに作り上げた、インドの手刺繍をふんだんに盛り込んだ
洋服の制作だという。そのために、昨年ようやくインドの地に小屋を建てたそうだ。
付き合いの長い、腕のいい職人さんたちの小さな仕事場を作ったのだという。
「コミュニケーションはどうしているのか?」と聞くと、
「言葉が通じるかどうかは、ちょっとした問題ではあるが、
大した問題ではない。」という。
英語でわかる範囲で会話をして、楽しく過ごしているそうだ。
インドでは、日本人のペースで仕事を進めていくのは不可能だと
言われている。その理由は、ただただ、のんびりした国民性からくるもの
かと勝手に勘違いをしていた。年間、多いと3~4回、何か月にも及び
インドで生活する彼らにあらためてそれを聞いてみると、少し違った答えが
返ってきた。
「インド人は日本人よりよっぽどせかせかしてますよ。ただ、
人をもてなすことや、話をするのが大好きな人たちで、
ちょっと生地を買いに行ってくるといっては、しゃべりすぎて
5時間かかる。」
チャイを5杯、6杯飲むのはざらだという。
だから、ゆったりしているという表現には全く違和感があり、
「せかせかしているのに、事が前に進んでいない」
というのが正しいそうだ。
そこにはかなりのストレスを感じるらしい。
だが、そういう現場だからこそできること、むしろ量産体制が整った現場では
できないことが、そこにはあるのだという。
きっと僕をはじめ、見て買ってくださる方々は、そこに素直に感動して
くださっているのだと思うのです。
たくさんの大変そうなエピソードを聞いた後で、素直な気持ちで
「仕事、辛くないですか?」って聞いてみると、
「10代、20代があまりにひどすぎたのか、、好きなことを好きな人たちと
やりあって、買ってくださる人たちがいて、幸せ過ぎて申し訳ない。」という。
そんな彼らの作品展を刺繍に焦点をあてて行います。
在店は今回も叶いませんでしたが、今回のディスプレーは彼らにお任せしました。
どうぞ、ディスプレーも含めて、ご覧いただけますと幸いです。
「AODRESS~刺繍の旅」
2019年4月6日(土)~14日(日)まで、annabelle 304にて
AODRESSの刺繍の仕事を中心にご紹介いたします。
※4月10日(水)は定休日でお休みとなります。
また、こちらのブログから、スタイリングの写真も
ご紹介させていただきますね。