annabelle

目に見えない価値

『着た瞬間にデザイナーの世界感に誘われる洋服が
モード服の定義ならば、ゴーシュはモード服なのかもしれない。』

6年前、当時連載を担当していた雑誌で、ゴーシュをご紹介した際に

ちょっと大げさかな、、って思いながら書いた言葉ですが、

まったく大げさではないと、今は思います。

たまに、お客様からストレートな質問をぶつけられます。

「これは、何でこんなに高いの?」
「これとこれは、何が違うの?」

買う側としてはしごく、まっとうな質問だと思いますが、

すぐにわかりやすく伝えるのは不可能だと言っていいほど難しい。

職業柄、多くのデザイナーさんとお話しする機会がありますが、

共通して感じるのは、とっても好奇心旺盛で実験好き。

興味を持ったことにすごい執着を見せ、やってみないと気が済まない

ような実験好きな面があること。

私もこだわりがあるほうだと思っていましたが、彼らに比べると

そうでもないことに気づかされます。

今日ご紹介するゴーシュのお二人も、もちろんその一人です。

いや、ふたりか。。

ゴーシュ

カツラギワイドパンツ ¥24,000+tax

先ほどのお客様からの質問の答えに迫ります。

結論から先に申し上げると、何度もブログで書いている、

「らしさ」をしっかりと持っているかどうかが、

もっとも大きいところです。

しかしそれは、原価があるものではありませんので、

説明するのはとても難しいのです。

いわゆる、アーティストのみせる表現力に似たところが

あるのかもしれません。しかしそれは、才能だけでは到底ない、

努力があっての表現だと思っています。

そして、もちろん素材の違いや、縫製レベルなど、

わかりやすく説明できる部分にも差はあります。

こちらは、「カツラギ」と呼ばれる素材で、

ややしっかりとした双糸の綾織物です。

チノやウェストポイントよりもやや地厚でありながらも、

一年中使い易い素材感であることが大きな特徴でしょう。

クローゼットの定番ボトムに据えるにふさわしい素材です。

もちろん、カツラギにも様々なものがありますので、

ゴーシュの二人が選んだこちらのカツラギが、

とりわけそのような特徴を持っているということです。

サイドポケットに加え、特徴的な小さなフラップポケットは、

4年前に初めて見た時は、ドライビングパンツのような、、

少し違和感を覚える位置とサイズでしたが、

ワイドパンツがたくさんある今となっては、しっかりと

差別化をはかれる素晴らしいバランスとデザインだとあらためて感じます。

後ろポケットも同デザインで、大きなものがついています。

左から、ブラック、ブラウン、カーキ、ベージュ、ホワイト。

カーキが新色で、全5色展開です。

ブラックは、maison de soil の天然染めのブラウスに、

ちょっと多めの2回ロールアップで履いてみました。

「らしさ」は感じる部分が多く、説明は難しいのですが、

我々が多くのお洋服を見て回る中、確実にハッとさせられる

何かがあるものと、そうではないものがあることは確かです。

それがバイイングの大きな基準となっています。

ゴーシュのブランドの一番の特徴は、彼ら夫婦が

ふたりとも、元パタンナーであることだと思います。

パタンナーとデザイナーは、脳の仕組みが違うといわれるほど、

近いところで仕事をしながら、まったく別な思考でいる存在だと言われます。

ですから、最もぶつかるもの同士でもあります。

この春夏に新色で登場して、すぐに完売した

ブラウンは、秋冬も健在です。

大人っぽく、シックなブラウンです。

ゴーシュのお二人は、2000年のインディーズブランドブームの

まっただ中に立ち上げた、新しい価値の創造を行ってきた人たちです。

ビッグメゾンや大手アパレル企業でたくさんのデザインやパターンナーが、

大きな組織で物事を進めていた1980年代~の20年余りが過ぎ、

少し混沌とした中で、それぞれが別のトップメゾンに所属し、

パターンナーとしてキャリアを積んできた二人が目指したのは、

その洗練された技術と感覚を持って、ものすごい日常寄りの

洋服を作ったらどうだろう?

きっといいものができるのではないだろうか?

そんなことを20年前に考えていたそうだ。

20年もの間、たくさんの名作を世に送り出している

お二人だが一貫して大切にしていることに「変化」が挙げられる。

常にアンテナを張り、自分たちが何に感動しているか、

何が気になるかを掘り起こしながら、デザインが始まるそうだ。

新色のカーキは、春物のgasa grueのブラウスに合わせて。

気になった頭の中のイメージをすぐに平面に落とす。

途中、二人での論争は絶えないそうで、なかなか先に進まないという。

ある時は、二人のそれぞれの意見を両方形にして、

実際どちらがいいかをお互いに見て決めることもあるそうだ。

とにかく、時間と労力を惜しまない。

「我々にとって、休みに映画を見に行くなんて、とびきりの贅沢です。」

というのもうなずける。

企業ブランドでは、キャドシステム全盛(型紙のデータ作成)で、

それが当たり前になる現代において、年間365日中、300日は

パターン台に向かうという彼らの仕事は、想像をはるかに超えて

ストイックでこだわりが強い。

だからこそ、我々バイヤーが見た時にも魅力を放てるのだと思います。

ホワイトは、ちょっと着古した感があるかもしれません。

2年前に購入した、妻の私物です。

james mortimer の開襟シャツと好相性です。

もっとも印象的だったお話は、、

さんざん二人でもめながら、ようやく形になりつつあるところで、

「なんか、、2年前に作った、あれに似てない?」

という現象が多々起こるという話です。

つまり、考えに考え、もめにもめた挙句、たどり着くのは、

一度作ったデザインに近いモノになるということ。

変化を求めながらも、現在も残しているデザインは、

そういったものが多いそうです。

定番的なシャツや、こちらのカツラギのワイドパンツもそうみたい。

視覚的なデザインやファブリックへのこだわりは、

大きな潮流のトレンドや、消費者それぞれの個人的趣向や気分によって、

その時選ばれるかどうかが決められる一方で、

ゴーシュが力を注ぐ、構造的なデザインは、洋服にとって

最も重要な着心地を左右する存在であるにもかかわらず、

試着でもなかなか気がつかない歯がゆさもある。

買って、所持して、履いて、洗って、

生活の中に取り入れて初めて、「あれ?これいいな。」って気づく。

ゴーシュはそうやって20年、着実にファンを増やし、

ファッションがライフスタイルの一要素になりつつある昨今の

傾向を前に、「自分たちのできることを続けていくまでです。」

と、少し情熱的に、静かに語ります。

「着て良かったから、また同じブランドを買ってみる。」

そんなシンプルなサイクルが起こることにこそ、

ブランドの実力を感じたりする。

sns で売り買いも行われる今の時代に、ホームページもなく、

お問い合わせは電話だけというゴーシュ。

もちろん、Instagramなどやったこともない。

ぜひ、そのままでいてほしい。

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