小さなタネの物語
数日前、出勤前に小さな行列ができていた。
「何だろう?」と思ってみていると、
「はい、次は〇〇君の番だよー。」と言って、幼稚園生が列をなして、
雑草の綿毛をフーフーして種を飛ばして遊んでいた。
「あの種がまたどこかで花を咲かせるんだよ。」
という先生の話に、子供たちが目をキラキラさせていた。
ASEEDONCLOUDデザイナー玉井健太郎さんは、幼稚園時代に
自ら描いた絵本の題名をもとに、ブランド名を付けたわけですが、
彼はいったいどんな少年だったのだろうかと、考える一幕でした。
「くもにのったたね」=「a seed on cloud」=「ASEEDONCLOUD」
彼の創作の中で、この「くもにのったたね」の物語は、
ずっと背景に流れるストーリーとして存在し続けているようだ。
今シーズンのコレクションは、デザイナーが5歳で描いた物語の
続きという設定で作られている。
双子の姉妹が咲かせる花の美しさが、一時(いっとき)は地上に
混乱を生むが、悩んだり、考えたりした末に思いついた方法で、
その花たちは地上の人たちを幸せにする。
ASEEDONCLOUD
peasant dress ¥45,000+tax
cotton 80% silk 20%
玉井さんが作り出すプリント柄は、そうとうに魅力的である。
いわゆる「ワンリピート」がとても大きいことから、
「洋服のプリント柄」という印象が非常に薄く、
ひとつの作品として見ごたえのあるものに見える。
しかも、色数もすごい。
細かい描写をみると、いったい何版使っているのかと、
いらぬ計算をついついしてしまう。
衿はスマートで飽きのこないシャツ襟。
マーガレット・ハウエルのアシスタントをされていたことが、
この美しい衿からもうかがい知ることができる。
少し肩傾斜のあるデザインは、きちっとしながらも
ラフで丸みのある女性らしさを感じさせる。
タックで切り替えた袖口のデザインは、甘すぎず、
平凡すぎず、とてもブランドらしさが感じられて印象的です。
袖丈は、一見半袖に見えるのですが、実はもっと長い。
7分袖くらいでしょうか。
ウェストはやや高めの位置でタックが入り、シルエットに
変化が出るようにデザインされている一方で、伸縮性のある
目立たないゴム紐が付き、軽く結わくことでアクセントにもなる。
タックがあることで、こちらも平凡なシャツワンピースに
なることを嫌っているように見える。
とても美しい。
ふんわりパンツのホワイトに合わせて。
遠目から見ると、肘辺りのふくらみとウェストの
絞り具合が絶妙に絡み合うバランスの良さがうかがえる。
目立たないゴムひもを軽く後ろ側で結わいて留めている。
SUSURIのムールベストを合わせても素敵です。
春の風が心地よい季節のレイヤード。
そして嬉しいのは、前を開けても着ていただけること。
インナーにはカットソーや、今回のようにフレンチスリーブの
ブラウスを合わせて着ると、初夏から夏の始まりには、
羽織としてもたくさん活躍します。
純粋な子供が反応しそうな花柄です。
まったく同じデザインで、素材違いがございます。
ASEEDONCLOUD
peasant dress stripe ¥28,000+tax
cotton 100%
このお値段から、あの花柄がいかに特別感のあるものかが覗えます。
しかしながらこちらも、コシのある良い素材です。
オフホワイトベースのストライプは、
無地と同じ感覚で着ていただける。
こちらは下にNO CONTROL AIRの裾ゴムパンツを履いています。
今シーズンのこのパンツの素材は、サラッサラで心地いい。
透けないけど、涼しい。
少しきちっとした印象のスタイリング。
もちろん、デニムやワイドパンツに合わせたら
また違った良さが出るのでしょう。
今回のコレクションの背景にある物語を思い返してみたいと思います。
双子の少女が咲かせる綺麗な花たちは地上のみんなの人気となり、
そのうちに雲と地上を行き来する梯子を使って、
地上のみんなは直接花を見に来るようになりました。
自然の光と調和する素晴らしいその景色は、たちまち評判となり、
雲の上へ人々が押し寄せるようになりました。
その状況に恐怖を感じた花たちは、ひとが訪れない夜だけ、
花を咲かせるようになったのです。それを見た双子の少女たちは、
花を不憫に思い、地上とのかけ橋になっていた梯子を外すことにしました。
人々は残念に感じていたのですが、雲の上で咲いた彼女たちの花は、
いずれ種となり、それらは風に乗って蒔かれ、
地上に新しい花々を咲かせることになったのです。
地上の人たちも喜びました。そしてまた、新しい種の冒険が始まったのです。
ASEEDONCLOUDの商品についている札は袋状になっており、
お値段や商品名だけでなく、その中には実は花の種が入っている。
そう、デザイナー玉井健太郎が幼少期に描いた種の物語は、こうして
大人になって作り始めたブランドのお洋服を通して続いている。
種の冒険の物語は洋服を受け取った人それぞれの中で様々に展開する。
それを想像して、、彼はまた新たな物語を創造する。
そこからまた、新しい洋服が生まれてくる。
彼の洋服を着たすべての人が、彼のクリエーションの同胞となる。
十人十色の着こなしが見てみたいと思う。