結局新しい
これから始まる秋冬の商品の中で、個人的に屈指の興味を引いた商品がHAVERSACKのジーンズでした。デニムの歴史は古いようで新しく、それは皆さんご存知の「リーバイス」の誕生とイコールですので、1850年ということになります。労働着の需要が高まったこの時代、イタリアから伝わった綾織の頑丈な帆布で作業着を作り始めたのがリーバイスの前身で、その後さらに強度を増すための「リベット」の開発により、その製法の特許を得ることで現在のリーバイスが誕生することになります。およそ200年近くも姿形をほとんど変えずに存在し続けているジーンズは、デザイナーにとってどういう存在なのか?かのサンローランが「できれば自分がジーンズの開発者でありたかった」と言い残すほどトップデザイナーから見ても変化のつけようもないほど完成された、普遍性のあるデザインの衣服であったのだと想像できます。デザイナーが作るべきジーンズはどういったものか?一般的に言われる「素晴らしいデニム」は数々のデニムメーカーが世に送り出していますから、デザイナーはそこから出てこないものを作る必要があります。少なくとも僕はそういう目線で展示会でオーダーするかどうかを考えています。その一つが毎回オーダーしている「FIRMUM」のデニムですが、今回HAVERSACKでこちらに出会いました。
実は先に申し上げると、このジーンズは内側に紐のついたイージーパンツ仕様なのです。「デニム愛好家」からはどう思われるかわかりませんが、僕はこのジーンズを見た瞬間からテンションが上がりまくりました。ただただ「かっこいい!」と思ったわけですが、それには冒頭に書いたようにデニムメーカーが作らなそうなムードを醸し出している点も大きな理由です。「赤耳」やら「三巻(みつまき)」などにこだわるのではなく、自分らしいシルエットの中にジーンズ生地を落とし込んだ感じです。それが見事なまでにはまっている。
ウェストはあまりカーブをつけないヴィンテージデニムのような雰囲気で、それが着用した際の印象にも出るのですが、ヴィンテージデニムと違って紐が付いていますから、絞ってある程度ご自身の好きな感じに穿くことができるのは良いポイントです。
月桂樹のドーナツボタンのボタンフライフロントに紐が付いている姿はデニムメーカーのデニムには見ない景色。さらにポケットの内側にタックがとってあるのも僕にとっては好印象です。
そしてこのジーンズのこだわりのポイント「その1」は生地にあり、1880年あたりのインディゴが天然藍から現在の合成インディゴに変化する頃のジーンズ生地をモチーフに、デニムオタクの生地屋さんが開発した生地を用いています。その頃のジーンズの特徴を研究して、撚糸の強度に大きなムラがあることに注目します。おそらくその当時、撚糸強度の均一が困難で、ところどころ撚糸が甘かったり強かったりすることが通常だったのだと思います。それが故に出た当時の味わいを再現すべく、撚糸強度の異なる縦糸を用いて生地を作ったそうです。正直、、そんなことをする人がいることに驚きとニヤニヤが止まりませんが、とにかくこの生地がそうとうに特別であることは間違いありません。
そこにこのリベットです。リベットについても冒頭で触れましたが、現在では当たり前のこの丸い金具が留まっている姿は、150年前にリーバイスが開発して特許を取った技術です。おそらくこのリベットの形状や1箇所づつ経年劣化の風合いの異なる姿は、生地と同じく19世紀後半のジーンズをイメージしてのものだと思います。
幅広についたリベットのあるヒップポケットも古いジーンズを連想させます。
このジーンズのこだわり「その2」は、加工技術です。ジーンズの加工は最新のレーザー加工まで様々ですが、高級ジーンズの多くはヴィンテージを知り尽くした職人によるハンドシェイビング加工が取り入れられています。こちらの加工もすべて、1本づつ手作業によるシェイビングが施されています。色落ちのムラ感や縫い目の当たり。シェイビングを施しながら、陰影をリアルにつけるために、後から泥や本藍を用いて濃度を上げる作業も行なっているそうです。
うっすらと当たりの付いたポケットのダーツ跡もそういった技術によるものです。1880年当時のデニムにはないダーツの跡をリスペクトを込めて今の技術で表現しています。
品番、オンスは異なりますが、こちらのブラックデニムの加工も同じ技術が用いられています。1990年代を過ごしたファッション好きは全員ハマったのではないでしょうか。古着屋でとにかく買いまくったブラックデニム。アウトドアファッションと重なって、マウンテンパーカーやフリースに合わせて、足元はアイリッシュセッターのブラック、クレープソールが定番でしたね。僕はひねくれていたので、ボーダーのウールシャツにレッドウィングの2218(ラグソール)を履いてキャップを被るのが定番でした。懐かしい。
ブラックデニムの紐はブラックです。
そして加工なしのワンウォッシュがこちら。僕は加工にするかワンウォッシュにするか迷いましたが、妻が加工を穿きたいということで、こちらのワンウォッシュを個人発注いたしました。どんな色落ちをしていくのか?楽しみです。お洗濯は通常のデニムと同じように、ひっくり返して単独の手洗いをして日陰干し。しばらくすると移染はしなくなると思いますが、念の為白物とのお洗濯は避けていただくのが良いと思います。
フロントの比翼が極端に長いのも特徴的。妻は腰に引っ掛けて穿くのが好きなようですが、どう穿くかはそれぞれ。
ワンウォッシュは同じくHAVERSACKの裏毛のベストに合わせてみました。インナーは昨年も大人気でした素材のタッチが独特なNO CONTROL AIRのタートルカットソー。
2サイズご用意していますが、こちらが小さい方の0サイズ。お好みでロールアップもしてください。
けっこうダボっとしたサイジングですが、それがまたかっこいい。個々の体型に合わせて、自由に穿いて欲しいデニムです。
こちらが加工デニム。ワンウォッシュをここまで落とすには10年以上かかりそうですが、僕は地道に穿き続けたいと思います。しかししかし、先ほどから特徴として書いているとおり、ワンウォッシュを頑張って穿いてもなかなかこうはならないでしょう。たぶん。。それほどこの加工は秀逸でおしゃれでオタク的。これはこれを買う価値があると思います。
そしてこのパンツ、、前から見た際のかなりのオーバーサイズに対して、意外にヒップは綺麗に上がっています。落としてはいてもヒップはそこまで落ちて見えないところが現代的。
ベルトを使ってタックイン。こちらは少しウェストで穿いた感じ。これで穿きたい人は紐でも結けますが、久々にベルトを使うとより良い感じに仕上がります。
サイドにカーブをつけて、現代的に仕立てたデザインは、ヴィンテージの風合いを持ちながらも今のファッションに映える素敵なパンツになっています。内側のタックも効いています。
そしてさりげなくバンダナも刺したくなるジーンズです。
ブラックジーンズは少し早いけどNativeVillageのポロ襟のセーターに合わせてみました。90年台は普遍性のあるファッションの宝庫だと思うのですが、ジーンズにあらゆるアイテムを合わせることが当たり前で、あらゆるスタイルが同時期に存在する楽しい時代でした。アウトドアアイテム、レザーをはじめとするバイカーファッション、渋カジにはスタジャンが定番でしたしトラッドなかっこいい大人はマックイーンさながらステンカラーコートを合わせていました。そんなかっこいい大人がジーンズに合わせていたのがPOLOシャツです。
ゆったりした組み合わせが今の空気感にマッチして懐かしさを感じさせないくらい新鮮です。
ウェストはとっても大きく、ここまでゆったりしているからこそできるスタイリングではないでしょうか。セーターをタックイン。
HAVERSACKは海外のメンズの展示会にも出ているため、レディースとしてはかなり早いタイミングで国内の展示会を開催します。そこでこのデニムを見てしまった僕ら夫婦は、その後の展示会でもこのデニムが念頭にある状態でバイイングをしています。なんとなく90年台のジーンズを中心にしたファッションに惹かれながら各ブランドの展示会を見ていたため、ところどころでそれを感じるアイテムが登場すると思います。このセーターもその一つです。僕らと同世代の方は、ちょっと懐かしい30年前を思い起こしながら、今シーズンのスタイリングを見ていただくと、より今の提案が刺さるかもしれません。よく、「一度リアルタイムを経験したファッションには戻れない」とも言われますし、僕も従来そういった感覚がありました。しかし昨今の密かな自分の中での90年台ブームはどうも簡単に収まる様子がありません。ヘビーデューティーなアイテムから数年かけてじんわりと高まったこの気分は、今最高潮に達しているかもしれません。ただし、オーバーサイズやジェンダーフリーなファッションを通った後の新たな90年台ファッションです。そのままではないから結局新しい。楽しい秋冬の本格始動です。
HAVERSACKデニム
ワンウォッシュ ¥30,800(税込)
加工 ¥41,800(税込)
ブラックデニム加工 ¥41,800(税込)