幸せな洋服屋
今まさにannabelleで開催中の中村光陽の個展で、光陽の友人である美大の学生たちと将来の話を少ししている時に、写真をやっている学生さんが素敵なことを言っていました。将来はやっぱりカメラマンになりたいという彼に、どんな写真を撮っている時が一番幸せか聞いてみると、「子供の写真です」と即答した。どうやらアルバイトで小学校の遠足や運動会に行って写真を撮っているそうで、子供にも親御さんにも喜んでもらえるその仕事は最高だと。やっぱりどうあれ、人に感謝される仕事をしたいと言っておりました。自分の子供くらいの年齢の子達ですが、こちらの方が教えてもらえることがたくさんある。とてもまっすぐで思考がシンプルです。
洋服はどうだろう?と考えた時に、やっぱり何か欲しいと買いに来たお客様が試着をして、鏡の前でテンションが上がっているのを見ているのが一番幸せ。デザイナーにも見せてあげたい瞬間です。僕は撮影をする時の妻のリアクションをとても楽しみに見ています。今日はここ最近撮影したコートで、だいぶお気に入りだったものをご紹介いたします。
NativeVilage メルトンコート ¥90,200(税込)
ウールメルトンの格子柄のコートは、まるで着物と洋服を混ぜ合わせたようなデザインです。潔く攻めたタッターソールのような縦長の格子柄一色展開というのもかっこいい。
襟元は典型的なテーラーカラーで、いわゆるチェスターカラーコートを彷彿とさせますが、全体のバランスからはまったくそれを感じさせない突拍子もないコートです。
とにかくこの太い袖が最高に素敵なコート。
そして袖裏だけ付いているというのもちょっと珍しいように感じます。今回はスタイリング写真ではありませんが、袖を捲ってオフホワイトの裏地が覗くのも素敵。
縮絨したメルトン素材で、裏地がなく綺麗なパイピング始末です。
見ていても着ていてもとにかく袖に注目してしまうコート。そしてやはり格子柄というのもいい。
袖に負けないくらい大きなポケットも愛嬌たっぷりで可愛らしい。
この角度で袖の太さを感じながら眺めていると、ちょっと大正ロマンを感じさせる佇まいにも見えてきた。
昨日の将来のカメラマンの言葉を思い出し、アナベルで購入したお客様が嬉しそうにお洋服に袖を通す姿を想像する。嬉しそうに着るお客様を見て僕らは素直に嬉しくなる。なんだか難しいことを色々考えがちだけど、シンプルにそれが一番幸せなんだと思います。そんな洋服屋であり続けられるようにまた明日から頑張ります。