ちょっと真面目に考えてみた。
僕がレディースをやろうと思った理由はなんだったか?最近よく考えています。今日も3時間くらい考えていた。よくよく考えたら、アナベルを始めた1年目はメンズもしっかりやっていたのだ。でも、1年間自分が好きなメンズを提案した結果、、自分には無理だと判断したのだ。それどころか、メンズを諦めていなければ今頃アナベルは存在していないと思います。
「カッコイイとは思うけど自分には無理」みたいなことを言われすぎてやつれてしまったから。僕が男性でレディースのセレクトをやっているように、女性が男性のためにセレクトしたメンズセレクトショップがあってもいいのではないでしょうか?今の若い男性のファッションを見ていたら、よりそんな風に感じます。メンズファッションの幅が広がればいいとは思いますが、その点でレディースの方がメンズを圧倒していることも事実です。「ギャザー」というデザインのディテール一つをとってもそうではないでしょうか。
SP(エシュペー)スモックギャザーブラウス ¥41,800
ファッションの歴史を遡っていくと中世ヨーロッパの男性貴族の装いに注目してしまうのです。なぜならその時代の男性ファッションではスモックやギャザー、フリルやバルーンシルエットなど今のレディースのファッションで当たり前になっている要素全てがそこにあるから。数百年続いてきたその男性ファッションが途絶えたのが19世紀後半から20世紀初頭にかけてですが、その理由は今の僕にはわかりません。500年以上当たり前だった中世の男性ファッションが近代のたった100年で跡形なく消えてしまった理由はなんなのか?興味深々です。レディースでは今の時代にもしっかり残っているのにね。
ヴィンテージのチャーチスモックをモチーフにした迫力のあるスモックブラウスは、本気で作れば作るほど高価なものになるのは必然です。ギャザーは細かく分量が増えれば増えるほど布地の用尺は増え、縫製も難しくなるからです。その上さらに生地そのものに上質さを求めれば尚のこと。
スモックブラウスの特徴を残したフロントのデザインが素敵です。ボタンをどこまで開けるかは着る人それぞれです。
このドロップショルダーや三角マチの脇下のデザインもヴィンテージを彷彿とするデザインです。
カフスに施されたレールステッチや細やかなギャザーなど、こういったディテールの積み重ねが洋服を引きで見た時の上質感に繋がるのは間違いない。
簡素化されがちな縫製レベルの高さもSP(エシュペー)の洋服の特徴の一つです。
ふわっとエアリーな細番手のローンは、今の日本の気候を考えた時、非常に着る機会の多い素材感です。とりわけこのような膨らみを感じさせるデザインにはもってこいの生地なのです。
背面も大分量で細やかなギャザーが美しいブラウスです。
この肩の切り替えもヴィンテージに見られるデザインをもとにしたディテールの一つですが、一点一点に力を込めた時代ならではの価値あるデザインディテールだと感じます。量産のプロダクトが当たり前の現在のもの作りにおいて、どこまでこだわり抜くのかのデザイナー個人の見解が垣間見える、大袈裟に言えば覚悟のようなデザインです。
今回のブラウスは両色とも実は製品染です。つまりブランドのオリジナルカラーです。以前からお伝えしている通り、デザイナーの赤丸さんはカッコイイ「ブラウン」を作る天才なのではないかと感じています。全体のコレクションではモノトーンや生成りが目立ちますが、僕はブラウンに注目してしまいます。
ホワイトにホワイトのボトムスを。パンツは同じくSPのチノクロスワイドパンツです。
初めはハリのある綿ローンですが、お洗濯を繰り返すことでより素敵なドレープ感や肌触りを感じさせてくれるだろうことは容易に想像できる。
やや細身のパンツに合わせてブーツを。
YUIさんのサキソニーのタックパンツに合わせて。ちょっとメンズっぽさを感じる配色に女性ならではの「Jill(ジル)」を合わせているのがポイントかなと思っています。
そのままタックイン。甘くならないこういったスタイリングがアナベルの特徴なんだと思っています。少しシャキッとした大人の女性に向けたおすすめの雰囲気です。
ブラウンはホワイトや生成りに合わせたいのをグッと堪えて新鮮さを求めてブラックのボトムスに合わせました。ブラウンとブラックの組み合わせはとってもシビアで、モッサリとしかねない色合わせです。SPのデザイナー赤丸さんが過去に作ってきたブラウンにも共通して感じてきたのは、ブラックに合わせやすい絶妙なブラウンだということです。
重くなりがちな「ブラック×ブラウン」も軽く着こなせるのはこのブラウンのおかげです。
着てあらためて感じるギャザーの迫力と袖の素敵なバランス。
そのままタックイン。ボトムスは意外にもブラックが新色だというkhadi&coのスターパンツ。真冬にも活躍するコットンキルティングのフカフカしたパンツです。
現代のファッションの世界には、過去のファッション全体へのリスペクトを込めて「本物志向」とか「トラディショナル」のような言い回しが常につきまとう。アナベルでセレクトする一つの基準にもなっている。しかし矛盾しているようでその全く正反対なデザインも重要だと思っています。つまり過去のファッションを知った上でいったん簡素化してみることに挑んだデザインですが、アナベルの中でNO CONNTROL AIRやFIRMUMがそこに当たるのかもしれません。とても前衛的(アバンギャルド)な存在です。アナベルはこれからも男性目線で見た、トラディショナルとアバンギャルドが入り混ざった、いい意味で混沌とした答えの見えないスタイリングを提案したいと考えます。それが冒頭の答えなのかもしれません。SPの徹底した本物嗜好(志向)なお洋服を見ていたら、有難いことにそんな答えが見えてきたのです。直接お客様とファッションを語るショップとして、予定調和を嫌い、一期一会や未知との遭遇、青天の霹靂を望むのは当然の思考なんだと感じます。