人生の断片なるもの
今の時代、「どんな人がどんな思いでデザインしているのか。」
ということもとても重要視されていて、お客様もそこに興味を
抱く方は増えているのだと思います。
それは洋服に限らず、すべてのモノにおいてです。
我々も仕入れをするときには、お客様と同様、気にかけていることの一つです。
今ある、展示やブランドの受注会などは、まさにその潮流にそって
行われているイベントだと言って良いのではないでしょうか。
そこへ出かけて行くと、デザイナーがいて、バイヤーが仕入れをしない商品も
並んでいたりする。ファンであるお客様には嬉しいことです。
でも、少しだけ違った考えのデザイナーもいるようです。
TOKIHO
PRESENCE-3 ¥51,000+tax
チェビオットウール羽織ワンピース
今年の春夏シーズンよりお取り扱いをスタートしているTOKIHO。
彼の洋服を初めて目にしたのは6年前の春、今はなき青山の
セレクトショップで偶然見かけたのが最初でした。
もう一目で気に入って、すぐにシャツとワンピースを買って帰りました。
それからお取り扱いまでずいぶんと時間が経ってしまったのは、
やはり彼の作るお洋服と彼の哲学に少し怯んだのかもしれません。
その当時の私には販売する自信が持てませんでした。
今、少しづつですが販売して、良いと言ってくださるお客様がいることは、
6年分の思いをのせて、嬉しいことなのです。
英国のチェビオットウールの細番手を高密度で織りあげた
贅沢な布地です。チェビオットは世界でも数少ない改良品種ではない
原種の羊毛です。やや硬さが残るものの、その素朴な風合いと
上質さで、デザイナーや洋服好きには愛される素材の一つです。
今シーズンは、洋服の衿の存在についてよくよく考えすぎ、
気が付いたら衿の気配を消すデザインが増えていたという。
18世紀ごろの紳士服のシャツなどにみられる衿のデザインを
ヒントに作り上げた。
フロントは比翼仕立てで、ボタンはアンティークの磁器ボタン。
背面も高い位置で切り替えのギャザーが施されます。
これにより、クラシカルで美しいAラインが表現されます。
袖口も簡素でいて機能的なデザイン。
とてもTOKIHOらしい部分といえるのではないでしょうか。
もちろん両サイドにポケットもございます。
大きな裾周りに小さな可愛らしいスリットが入ります。
こちらはワンピースの上に羽織コートのような感覚で着ています。
かなり打ち込みのあるWOOL地ですので、今のような寒暖差の大きな
季節の変わり目にはコートとしても活躍します。
身頃が大きく、その割に袖はすっきりと。
それがTOKIHOのバランス形成のポイントです。
たっぷりとしていますが、着てみるときれいで、
肩回りから腕の当たりはすっきりとした印象です。
フロントは肩口からのタックでふくらみを持たせ、
背面は高い位置から切り替えてギャザーが施される。
どこ角度から見ても立体的で美しい佇まい。
こちらは前をすべて閉じて、ワンピース仕様で着た場合。
袖周りがすっきりしていますので、ロングワンピースにコートを
着るのと同じように、冬中着ていただけます。
TOKIHOデザイナー吉田 季穂は、「存在」について
いろいろと考えを巡らせています。
自分自身の存在や仕事の意味合いや目の前にある
興味を引く何かに対して、そして自身の作る洋服の存在について。
哲学のようで答えは見当たらないのですが、自身の製作した
洋服については、製作者、デザイナーとしての自分の存在は
必要ないと考えています。
より着心地良く、洋服としての存在感に光をあてて、
作り手の気配は精一杯に消し去る衣服。
着る人が大切に着続けることで、彼のテーマにもあるように、
その衣服は、着る人の人生の断片になるのでしょう。
彼はその断片のような感情のモノを作りたいと考えています。
「PRESENCE=存在、存在すること」