いいシャツは、いいシャツだ。
「洋服の中で何が好き?」って言われたら、それは僕の場合「シャツ」と「パンツ」になるのです。なぜかというと、圧倒的に着る回数が多いから。たぶん、1年の4分の3はその組み合わせでスタイリングしているのではないでしょうか。日本にはありがたいことに四季がありますので、季節に応じた素材や色の違いを楽しみつつ、ベースにはパンツを穿いて、シャツを着ています。寒くなったらその上にセーターを着たり、カーディガンを羽織ったり、ジャケットを着たり。そんなシャツ好きの僕が、あらためてじっくり見て、ただただ敬意を表するしかないくらいすごいなって思うシャツはゴーシュのシャツ。
ゴーシュ コットンリネンポプリンノーカラーシャツ ¥25,300(税込)
生地はコットン85%、リネン15%の年間定番で活躍しそうなポプリン素材です。柔らかく、薄すぎず、厚すぎず、重ね着もしやすい素材感です。
ノーカラーで首回りはスッキリとしたデザインです。
ゴーシュのシャツで最も特徴的なのは袖付けのパターンかもしれません。ゴーシュのお二人は、ご夫婦ともに10代からパターンナーの勉強をして、トップメゾンに就職して、ファッション業界の第一線で活躍してきたパターンナーです。デザインの勉強とはまた違い、より専門的な職業です。そんな人たちからすると、「当たり前」らしいのですが、世の中にはそうでない洋服がありふれていますから、僕らバイヤーから見ても凄いなって素直に思います。具体的には、着用して動いたときにとても楽。腕を上げたり回したりしても裾が暴れないし、こんなにスッキリして見えるのに窮屈さを感じない。
シャツの象徴とも言えるカフスと剣ボロのデザイン、仕様(始末)が群を抜いて綺麗。
こだわりとして、メンズみたいなシャツポケットが付いているのもかっこいいと思えてならない。
シャツの運動量を確保するために多くみられるボックスプリーツもなく、とてもシンプルで削ぎ落とされたシャツのデザインだと思います。これで着心地が窮屈だと、本末転倒なのですが、ゴーシュのシャツはものすごく着心地がいい。
肩ヨークはやや幅の狭い細いデザインです。ここまで褒め称えると日本製のシャツを想像しますが、ゴーシュは数年前からNO CONTROL AIRとともに、中国製を一部取り入れています。このシャツもその一つです。とにかく理由はどうあれ中国製は嫌だという方もいらっしゃるかもしれませんので、通信販売ページには記載していますが、ここではさらにその取組の内容も今一度お話ししようと思います。(もう10回くらいブログを通してご説明してるので、知っている方はどうぞ読み飛ばしてください)
もうずいぶん昔から、日本の縫製工場は、縫製職人の70%を海外からの研修生に頼る形で成り立っています。そこには民間の力だけでは解決し得ない複雑な理由があり、簡単に解決できる問題ではありません。また歴史的にみて、より安いものを求めた消費者に合わせ、生産拠点が一斉に海外へと移り、仕事を取られた日本の良い職人が会社ごと潰れていき、跡取りなど当然望めないないような状況を生んでしまった経緯もあり、それを間近で見てきた生き残った工場経営者が若い人たちへの教育や設備投資に二の足を踏むのも当然だと思えるのです。
そんな状況の中でNO CONTROL AIRさんやゴーシュさんが考えたのが今彼らが行なっている「中国製」です。どういうことか?現在の日本国内の縫製を支えるを70%の海外研修生は、3年ほどすると自国に戻ってしまいます。3年というと、ちょうど色々任せられ、かなり難しいこともできるようになる頃です。何よりブランドごとの「くせ」や「感覚」が掴めてくる頃です。「もったいないな、、」と常々感じていたある日、自国へ戻った中国人の若者から連絡を受けたそうです。「中国で若者だけで縫製工場を始めたいが、わからないことが多いので教えて欲しい。手伝って欲しい。」と、そんな連絡だったそうです。その時、真剣に今の日本の工場問題についてじっくりと考えさせられたそうです。そこで彼らが出した答えが、「気心知れた外国人に頼む」ということでした。3年間、何度も顔を合わせて「あーしてほしい。こうしてほしい」と会話を繰り返し、3年経ってとても上手に縫ってくれることができるようになった中国の若者に頼むという選択。もちろん全ての商品ではなく、日本の工場だけでは人手不足で作りきれないものを一部お願いするというもの。つまり日本の工場で研修生として縫っていた、同じ人が同じ設備で縫う。ただし、場所が中国というだけ。そんな発想で、彼らの中国製は存在しています。もちろん彼らが直接管理しています。ただ、「中国製」か。。と残念に思ってしまうお客様もいらっしゃると思いますので、一応その経緯を書かせて頂きました。
色は4色展開です。
ホワイトはSUSURIのタピールパンツに合わせて。
やや太めの綺麗なパンツに合わせてシンプルなシャツスタイルを。
グレイッシュブルーはHAVERSACKのリップストップ素材のスカートに。このスカートはリップストップ素材というところが本当にかっこいい。少しハードな印象もありますが、このデザインにハマっています。
スカートで裾を出してきても長く感じない絶妙な着丈。
もちろんタックインしてもカッコイイし裾が出てしまうようなことにもなりません。
上からベストを合わせて。
ライトベージュ。
ライトベージュはNO CONTROL AIRのシワシワ無双仕立(共布二重)のパンツにスッキリとした印象のスタイリングで。
上から羽織や季節が進んだらセーターを着てもいい。ベストもいい。
ブラックは最近気になるオールブラックで。冬になってしまうと重くて敬遠しがちなオールブラックですが、真冬になりきらない冬や秋は、オールブラックがかっこよく見える季節だと思います。ここに1点明るい色の小物を足すこともおすすめです。来月のsonorさんの展示でほぼ全ての品番で「赤」をお願いしたのもそんな感覚があったからです。
こちらは羽織も黒系でまとめてみました。羽織はFIRMUMのバルーン袖の可愛らしいシャツカーディガンです。
何かがおかしい日本の社会。ファッション業界の視点から少し見ただけでおかしな方向に進んでいることがたくさんある。このままでは縫製工場の跡取りがいなくなり、若い職人も当然育つはずがない。いずれ海外の資本に買われ、名ばかりの「日本製」が増えてくるに違いない。どうすればいいのか答えは定まらないけれど、そんな話はどの部門で働く人たちも共通して不安に思っていることです。ゴーシュやNO CONTROL AIRが試している方法も一つです。でも本来は、90年代までの元気な「日本製」が戻ってくることを誰もが望んでいるはずです。そしてそれを取り戻すことができる可能性を持っているのは絶対に若者です。だから若者に魅力を感じてもらえるような生産現場が必要だと思います。そんな朧げな答えはたぶん業界の皆さんが思っています。でもそこにはたくさんの人やお金がかかります。教育の時間もかかります。仕組みも必要です。そしてその方法で作った商品は今よりさらに少し高くなります。「より安いものを国産で」という発想が「外国人研修生制度」を作ったわけですから、その発想を捨てるとなると、僕ら小売にはより良いものを適正な値段で販売する能力が問われてきます。まずは良いものを誠実にお勧めできるシンプルな店づくりに励むしかないこの頃です。良いシャツで、シャキッとした秋を始めましょう。