人生となるもの
以前、「暮らしとおしゃれの編集室」の連載で、
TOKIHO(トキホ)さんについて書かせていただいた時、
まだお取り扱いが始まったばかりということもあり、
デザイナーの吉田季穂(ヨシダ トキホ)に電話をして、
2時間くらいお話しをしながら、様々な質問をさせていただいた。
とても掴みどころのない魅力的な哲学を持ち合わせた彼の返答に、
いったいどうやって文章をまとめようかと頭を悩ませたものでした。
繊細で、複雑な彼の思考のかけらを拾い集めるかの如く
書き連ねた私のノートには、「印象」という文字がちりばめられた。
彼の口から出た言葉で、最も目立つ言葉の一つでした。
今日は彼の作ったコートをご紹介いたします。
TOKIHO
LIGHTNESS-VI
Black ¥75,000+tax
super100という、とても張力のあるしなやかな高級WOOL糸を
用いたメルトン素材は、しっかりと目の詰まった質感と
洗い加工を懸けることでのいい雰囲気のラフさを醸し出す。
仕上げに40度のお湯洗いを施すのが好みだそうだ。
ちょっとした衿の切り替えは1800年代の紳士のシャツデザインに
惹かれるという彼の趣味がじんわりと表れている。
ボタンは、1940年代のアンティークの磁器ボタンを使用している。
一つだけ色が異なるボタンが使用されており、よく見ると
気が付く程度の色違いについ笑みが漏れる。
総裏の仕立てで、内ポケットが充実している。
クラシックな紳士服のようでこちらもレディースとしては新鮮です。
内ポケは、左に2つ。右に1つ。
あわせて3つもある。
打ち込みのあるsuper100の糸のメルトンに裏付きですから、
それなりに重さはあるのですが、これが着ていただくと不思議なくらい
重さを感じない。最高に着心地のいい仕上がりになっております。
シンプルですっきりとしながらも、とても
迫力のある佇まいが素敵です。
「印象」を残すことができれば、その表現が洋服でなくても
良かったのですが、、やっぱり好きだから、洋服になるんでしょうね。。
そんなことも言っておりました。
「いいなぁ、、。」と思えるものを作って、
「誰が作ったか知らないけどいいなぁ。」って買ってくれる人がいて、
その洋服が買ってくれた人と人生を共にして、その人の人生の
断片となり、洋服にはその人の生きた確かな証が残る。
その時、洋服は、ただの洋服ではなく、着続けたその人の印象になる。
きっとそのような洋服が作り続けたいということを
彼は言っていたように思います。
だから、作り手としての季穂さんの存在は、
そのプロセスに必要なく、かえって邪魔になるという
考えを持っているということも言っていた。
だからTOKIHOのお洋服については、お客様が作り手と
直接お会いすることは今後もまず叶わないわけですが、
とても面白い人物であり、彼の作る洋服はクラシカルで
とても現代的な着心地の良さを兼ね備えた、最高の洋服である
ことはまず間違いない。
わたくしは美術に関して全くの無知ではありますが、
「印象」という言葉を何度も聞いているうちに、
彼の大好きだという1800年代のヨーロッパのファッション文化と
重なって、芸術の世界の「印象派」という言葉が頭をよぎりました。
モネやマネといった、美術史を理解していない私でも名前を知っている
画家が名を連ねる印象派の定義には、ざっくりとこのように書かれていた。
「そのものの直接的な色彩や形よりも、その場に感じた空気間の
ようなものを表現した抽象画」
あらためて印象派の画家が描いた絵を見たうえで、彼のライフワークである
写真や油絵を覗き見ると、より深く共感できる部分が出てきたように思う。
彼がその印象派の画家たちに何らかの感情を抱いているかどうかはわからないが、
今度会ったら聞いてみようと思う。忘れなければ。。
以下に、彼がホームページに書いているテーマをそのまま
記載したいと思います。
第一の主題:人生となるもの
古くからある 人々の痕跡
肖像写真 音楽 芸術 建築 家具 衣類
それらからは 豊かな心や生きる事への責任を感じ 当時の生活を垣間見た様な気がします
人々の衣類は生活の中で汚れ 当然の様に破れ
それでも各々に直しながら 身体の一部として大切に身に付けています
物は物を超えて 人生の断片となっていきます
私は 人生となるものを念頭に 日常の為の衣類を制作しています
汚れても破れても 思い思いに直しながら 着続けてもらいたいという思いがあります
深い感情と共にある 擦り切れた 一枚の肖像写真の様に
幾度となく 人のこころに平穏をもたらした 音楽の様に
時に 日常の生活の中に光をさした 芸術の様に
住み慣れた 居心地の良い 部屋の様に
使い古され 角が落ちた 家具の様に
私は その様な感情のものを つくりたいと考えます
※TOKIHO h.p.より