10年後の再会を願って
洋服をはじめとして、作られたものは全てそうかもしれませんが、原材料がとても大切な存在になります。ただただ高級な材料を使えば素晴らしいモノが出来るかと言ったら、そうでもないところがモノ作りの面白い点かもしれません。今回ご紹介するSP(エシュペー)のデザイナー赤丸さんもそんな点を楽しんでいるデザイナーの一人ではないでしょうか。
SP ローブコート ¥132,000(税込) white
手に取って触った感触は、ウールだけでなく、カシミアが入っているような印象を受けるほどしっとりと、しなやかな手触りを感じます。一般的に「ウール」というと少しカリカリした感触やツイードなどはゴワゴワした感触があったりします。しかしこのコートに使用されたウールは、洋服屋である僕らが触ってもそうとは思わないほどソフトでしなやかでしっかりとしたタッチです。いったいどうやってこんな素敵なタッチのウール織物を作ったのか?そしてまたコートのデザインが素敵すぎる。
素材を活かし、ノーステッチで高級感を感じる仕立てです。素材の良さを全面に出したシンプルで飽きのこない大人のための一生物のコートいう気配が漂っています。
2つのボタンは見えないように比翼仕立てです。
両サイドに内ポケットがございます。
布地のドレープ感が存分に味わえる袖と身頃が一体となったデザインです。ラフに見えて、非常に計算された細やかな配慮を感じさせるパターンで、幅広い体型の方にとって収まりの良いデザインのコートと言えるでしょう。
袖口やポケットにもステッチはなく、素材感とシンプルで大胆なシルエットで勝負したコートであることがわかります。できる限りミニマルに作ろうと意識したデザインが素敵です。
裏地はとろみと光沢感のあるレーヨンコットン素材で、表地との相性がとても良い裏地です。
ブラック
色はこの素材とデザインにふさわしい白と黒。素材は極細のウール繊維のスケール(うろことも呼ばれるギザギザした繊維の表面)を除去した糸を用いて、ドイツで開発された名機、「ショッヘル織機」を用いてゆっくりと繊維の良さに負荷をかけすぎずに織り上げたこだわりの詰まった布地です。洋服屋でなくても、誰ももが触ったら良い生地であることがわかる特別感のあるタッチです。
ボトムスのシルエットやトレンドに大きな変化が出ても着続けることができると想像してしまうシンプルでよく練られたデザインのコートではないでしょうか。こちらはGASAの太いパンツに合わせていますが、細いパンツに合わせてもカッコよく、スカートも様々なデザインに似合いそう。ワンピースにももちろんですがサロペットやオーバーオールでもかっこいい。ゆとりのある身頃に無理のない細身の袖部分がさらに普遍性を感じさせるコートです。
横から見たシルエットはよりそう感じさせる仕上がりです。ゆとりはアームホールの相当する箇所でデザインの一部となりながら運動量を存分に確保しています。一方で背中やウェスト部分の分量は妙に増えすぎないようなかっこいい仕上がりになっている。クラシックなお洋服を研究し続けているデザイナーならではの、ここから100年通用するデザインのコートではないでしょうか。
ホワイトに生える薄いグリーンブルーのような色のモヘアがよく似合います。
ブラックです。ブラックはボトムスにタイトめのスカートを合わせました。インナーに白のセーターを持ってきて、モノトーンでシックに合わせたくなる。しかし一方で、さりげなくごく普通のデニムに合わせたらもっとかっこいいかも?とも想像できる。
黒を中心としたモノトーンに赤いバッグが目を見張ります。
実は手袋をしていますが、あえて真っ黒でつけていることが分かりにくいスタイリングにしています。シンプルに着れば着るほどカッコ良くなるコートかもしれません。例えば春先には下にカシミアのセーター、ボトムスは色落ちをしたデニム。靴はannabelleにあるモノであればR.U.のtheaやDELMONACOのパンプス。もしくはNO CONTROL AIRが提案している化繊のモダンな雰囲気のあるボトムスもかっこいいかもしれません。モモ山パンツの白を合わせても素敵ですよ。
一見ウールに見えないほど外見もしなやかですから、春なのにまだまだ寒い3月初旬辺りにも大活躍しそうなコートです。ボタンを閉めても首元は開いているデザインですから、これからの真冬にはストールが相棒になるコートです。しなやかでゴツさはありませんが、しっかりと目付けのあるウール100%ですから、首元さえ温かくしていただければ、当然真冬にも活躍するコートです。ヌクヌクとしたヤクのセーターや贅沢なカシミアのタートルなんかを合わせて、冬ならではのゴージャスな素材感に浸ってスタイリングするのも最高でしょう。こちらで合わせているのはゴーシュのアルパカウールのセーターです。
「いい服だ」というのがここまでシンプルに伝わりやすいのは、こだわった「素材」の力であることは間違いありません。風合いや感触、布地のドレープ感はすべてそこからきています。きっと素材の開発と同時にデザインも想像していたことでしょう。どんな方のもとに行くのかな?きっとどんなスタイルの方のもとへ行っても生涯愛されるコートになるはずです。その確認のために、とりあえず10年後に再会したいと思えるコートなのです。