想像は霧の中
コロナ禍を経て、社会は平然と流れるように動いているように見えますが、確実に人々が集まる機会は減り、その様相に変化も現れていることは事実です。あらゆる場面で人々の接触がなくなり、効率化が進められる一方で非効率的で魅力のある無駄が少なくなった寂しさも感じます。今回のASEEDONCLÖUDのテーマの中には無駄に見える時間や手作業の中に潜む魅力を伝える側面があるようです。今日は今コレクションの中で最も印象的だったコートのご紹介です。
ASEEDONCLÖUD 2024AW-sankayo-(山香葉)
18世紀前半、”ティーガーデン”という社交の場がありました。”ティーガーデン”はその名前からも想像ができるように、お茶や軽食を取ることの出来る娯楽施設でした。それまでは男性しか入れない娯楽施設が主流だったのに対し男性も女性も子供も入場できるティーガーデンは広々として風光明媚な田園地帯にありました。ほとんどのガーデンが4月から9月までの陽気な季節に身分や階級にかかわらず誰もが訪れることが出来るため家族連れにも人気があり週末は馬車渋滞が起こるほどの賑わいだったそうです。
時代も場所も違う地で本来とは違う秋から春にかけて移動式のティーガーデンがありました。それは霧の収集家と言われる人物に国が依頼して癒しを求める人に対しひらかれる場所でした。霧の収集家と呼ばれた彼女は新しい場所を開拓し、その時期に癒やしの効果の高い霧が多く集められる場所にティーガーデンを開きました。そして彼女からのコーリングカードが届いた人のみがその場を訪れることができたとか…..。今回はそんな霧のようなお話。
ASEEDONCLÖUD Laboratory coat ¥110,000(税込) アイボリー
クラシックな佇まいのコートは、中綿の総裏で身頃はもちろん袖までフカフカです。中綿キルティングステッチの代わりに刺繍で抑えています。Aラインの美しいシルエットは見応えがあります。
襟の内側にあるダブルステッチが効いています。
月腰があって襟が立体的
クラシックでゆとりのあるラグランスリーブ
袖口はタブで絞ることができます。
袖にも身頃と同じ裏地がつきます。コットンのようにしか見えませんが、すべりは良く、品質はナイロン100%です。
サイドポケットは両サイドにあります。
右身頃だけに縦型のポケットもあります。
内側はこのように細かく道具を仕舞えるポケットです。
バックスタイルに見えるタブでウェストを絞ることができる。
このタブのボタンを外して、、
表側脇部分いついたループに通してから、、
もう一度ボタンを留めるとシルエットにも大きな変化が出てきます。
このシルエットが、、、
こうなります。
ゆったりした円錐のようなAラインですが、トップスの肩周りは華奢にデザインされていますので、ゆとりはありながらもとても女性らしさの出たコートです。
フカフカ、ツヤツヤした素材感も手伝って、非常に品があるコートです。そして優しいクラシカルなクロスステッチが重なることで、どこかアンティークのような気配も感じるコートです。
どのようなスタイリングに重ねるかで、コートの印象も変わるので面白い。
ネイビーはゴーシュの裾ダブルのパンツに合わせて。
ウェストのタブを絞ることで、シルエットの変化をお楽しみください。
柔らかい素材感で、ボタンを開けて着てもサマになります。今回のテーマにもなっている「霧」というキーワードにぴったりな表生地だと思います。ナイロンというとテカテカしたツヤ感を想像しますが、これはまったく異なる、まさにモヤがかかったような絶妙なツヤ感がある素材です。凝った染色で、モヤの中に咲いたサンカヨウの花を表現している素敵なコートです。
ハンドカットの特殊な機械を用いた手仕事に近いクロスステッチ刺繍や、特殊な染色により揉み込んだシワ感を出すことでモヤのようなイメージを的確に表現したナイロン生地を見ると、手の込んだプロダクトであることがわかってきます。はっきりとしたイメージがあってこそです。これからも、物語とセットで楽しみたい稀有なデザイナーであることを再認識したコレクションでした。